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仲秋の

 ほろほろと酒を飲んでいる。
 盃の中には仲秋の名月。
 ゆら、と盃の中の月を転がしてから喉に流した。
 ふ、と短く細い息が薄い唇から漏れる。
 それを盃が受け止めた。
 足音に気づいて、伊達政宗は顔を上げた。しらじらとした月光を受けて、透けるように白い肌が青白く輝いている。切れ長の隻眼が闇に沈む赤色を捉えた。
「政宗殿」
 現れたのは、自他ともに認める好敵手、真田幸村だった。クセのある茶色の髪が、月光に艶やかに照らされている。ひと房だけ長い髪を揺らしながら、秘色の着流し姿の幸村が政宗の傍に来た。政宗は白地に青のしぶきを染め抜いた着流し姿だ。縁側の柱に背を預け、片膝を立てて月見酒を楽しんでいる。
 幸村は政宗の横に腰を下ろし、手にしていた皿を置いた。皿には蒸かした里芋が乗っている。
 政宗はチラリと里芋に目を向けてから、幸村を見た。幸村は幼さを残すまるい頬を持ち上げた。
「団子より、こちらのほうがよいかと存じましたゆえ」
「Ah」
 たしかに、団子よりも里芋のほうが、酒の肴にはいい。けれど――。
「最高の肴だ」
 ニヤリと片頬を持ち上げて、隻眼を剣呑に光らせた政宗が手をつけたのは、幸村だった。
 唇をかすめ取られ、幸村はキョトンとし、次いで赤くなった。
「なっ……」
 クックッと喉を鳴らして、政宗は盃を離して腰を浮かせ、幸村の頬を両手で包む。
「月明りに浮かぶアンタも、最高だ」
「ま、政宗殿……」
 初心な顔をしながらも、幸村は抵抗をしない。ギュッと目を閉じた幸村のまぶたに、政宗は唇を這わせた。
 くすぐるように唇で撫でれば、幸村のまつ毛が緊張に震える。舌を伸ばして目じりを舐めて、政宗は唇を幸村の唇と重ねた。
「ん……」
 緊張に硬く閉じた唇を舌先でチロチロと舐めていれば、硬さが抜けた。唇の隙間から舌を差し込み、前歯をゾロリと舐める。すると幸村はおとなしく口を開いて、政宗の舌を口内に招き入れた。
「んっ……、ふ……」
 口腔をさぐると、幸村の鼻から息が漏れる。それが甘いものとなるまで、政宗は丹念に口を吸った。
 触れている幸村の肌が熱くなる。帯を解いて肩から着物を落とせば、ほどよくやわらかな筋肉に覆われた肉体が、月光にさらけ出された。
「ふっ、んぅ……、ぅ」
 うっすらと幸村のまぶたが開く。垣間見えた瞳は濡れていた。息が熱い。
 政宗は唇を滑らせて、幸村の首を吸った。
「っ、……あ」
 鎖骨に軽く歯を立てて、盛り上がった胸筋の筋に舌を這わせる。指先でなめらかな肌を味わい、胸の色づきをクルクルと指の腹でなぞった。
「ふっ、ん……、んっ」
 幸村が手の甲で口を押える。政宗は胸の尖りに口をつけた。
「は、ぁ……、あっ、あ」
 過敏な体は朱色に染まり、淡く震えた。
「What a beautiful view」
 そっとつぶやいた政宗の声に、幸村が疑問の目を向ける。
「キレイな景色だって言ったんだ」
 ニヤリとして教えると、幸村が真っ赤になった。
「なっ、な……」
「もっと、たっぷり見せてくれよ。――月光に浮かぶ、アンタの肢体を」
 ぐ、と息を呑んだ幸村が政宗に手を伸ばす。
「政宗殿こそ、美しゅうござる」
「Ah?」
「白い肌が、内側から輝いておられるようで……」
 まるで切っ先のように炯々と光る政宗の瞳に、幸村の喉から物憂い息が漏れた。漆黒の髪が白い輪郭を縁取り、細面を鋭利に見せている。
 言葉を失った幸村の指に、政宗は唇を当てた。
「なら、互いに楽しもうぜ? 幸村。――月光に浮かぶ相手を、な」
 政宗の手が幸村の太ももにかかる。緊張に浮かんだ筋肉のくぼみをなぞり、下帯を奪った。下生えに包まれた短槍は頭をもたげ、臨戦対戦に入っている。満足げに目を細めた政宗は体を折って、その先端を舌で掬った。
「ふっ、んぅ……」
 閉じようとした幸村の脚の間に体を入れて、政宗は短槍の先端を赤子が乳を求めるように吸いながら、根元を扱いた。幸村が胸をうわずらせ、必死に喉奥で嬌声を押し殺す。こらえ切れぬ息が漏れるのを聞きながら、政宗は己の体を熱くした。
「ふっ、んぅ、は……、あっ、は、ぁあ、あ」
 幸村の短槍が隆々と立ち上がる。政宗の唾液で濡れた先端は、快楽の先走りをにじませて月光を反射した。下生えの奥の蜜嚢を手に受けた政宗は、それをもてあそびながら幸村の短槍を扱く。
「ふぁ、あ、んっ、んぅ……、うっ、は、ぁあ」
 とろとろとあふれる先走りを指に絡めて、蜜嚢よりもさらに奥――尻の谷にある菊花に触れた。ヒクリと怯えるそこを、濡れた指でやさしくなだめる。
「ぁ、ん……、っ、う、う」
 両腕で顔を隠した幸村の泡立つ肌をながめつつ、政宗は彼の乱れた息とともに秋の虫の音を楽しんだ。静寂をさらに澄ませる虫の音と、凛と降り注ぐ月光に包まれる幸村の肢体に、静かな劣情を漲らせる政宗の腰のものも天を向いていた。
「あっ、は、ぁああ、あ……」
 政宗の指が幸村の内壁にある淫靡な点を突く。幸村は腰を浮かせて身をよじり、足で床を掻いた。逃げようとする腰を引き寄せ、政宗は己のたぎりと幸村のたぎりの先を重ねる。
「っ、は、ぁ……、政宗殿」
 ビクリと震えた幸村の目が、淫蕩に濡れている。性的な気配を持たぬ幸村の淫艶な表情に、政宗の胸が疼いた。
「幸村」
 政宗が体を倒すと、幸村は首を伸ばした。
「んっ、ふ……」
 唇を重ねて、舌を絡める。幸村の腕が政宗の首にかかり、政宗は幸村の脚を持ち上げ体を寄せた。
「っ、う」
 幸村がうめき、熱っぽい目で政宗を見る。
「いいか? 幸村」
 目じりを真っ赤に染めた幸村がうなずく。そこに唇を寄せて、政宗は己の欲を幸村の菊花に押し込んだ。
「っ、ぐ、ぁ、は、……あ、ぁあ」
 受け入れるための器官ではない箇所を貫かれ、幸村がうめく。政宗は幸村の短槍の先を指でこね、開かれる苦痛を快楽でやわらげた。そうしなければ、締めつける狭い箇所に入りきれない。互いの身のために、政宗は幸村の口腔を舌で愛撫し、短槍を指でよろこばせた。
「んっ、ふ……、ふぁ、あっ、んむぅ、うっ、う」
 たっぷりと時間をかけて、政宗は幸村に収まった。ふう、と胸の奥から息の塊を吐き出したふたりは、クスリとおなじ笑みを浮かべて唇を重ねる。
「――は。すげぇ、キツい」
 政宗が乱れ詰まった息で言うと、幸村も苦しげに胸を喘がせながら答える。
「某も、おなじにござる。――なれど」
 幸村の脚が政宗の腰にかかった。
「Ah――。これで終いには、できやしねぇ。……そうだろう、幸村」
 はにかむ幸村の瞳に、獰猛なよろこびがきらめく。剣呑な笑みをひらめかせ、政宗は勇躍した。
「んはっ、は、ぁっ、ああ、あ……、っ、あああ」
 突き上げると幸村が甘く切ない悲鳴を上げた。互いの肌にしっとりと汗が浮かび、相手の香りを強くする。
「は……、幸村」
「あっ、あ……、政宗殿、ぁあ、んぅうっ」
 乱れた呼気を重ね、唇をむさぼる。肌を打ちつけて足を絡ませ、ひとつの生き物のように蠢いた。
「はんっ、はっ、はぁあ、あっ、あ、んぁっ」
 政宗の腹に当たる幸村の短槍がヌルヌルと滑った。たっぷりと官能の液を吹きこぼすそこが、絶頂を求めて脈打っている。政宗は腰の動きをはやめると、幸村の首に噛みついて体を震わせた。
「ぅ、く……ッ」
 弾けた政宗のかけらが幸村を打つ。
「はっ、あ、ああぁああ――ッ!」
 仰け反った幸村が、高く切ない遠吠えと共に欲を吐き出した。互いの痙攣を重ねて、余韻をすべて絞り出し、息を吸う。
 ふうっと一瞬、意識を遠ざけたふたりは、荒い息に上下する胸を重ねて無意識に相手の唇を求めた。
 ゆるやかな口吸いを繰り返し、去りゆく官能の名残を惜しむ。
「……政宗殿」
「幸村」
 ささやき、指を絡めたふたりはまた、ゆるゆるとまどろみにも似た愛撫をはじめ、飽くことなく名月に包まれた相手を愛でた。
 虫の音が、ふたりの息遣いの伴奏を引き受けている。

2016/09/15



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