(おかしい) 眉間にシワを寄せて、真田幸村は立ち止まった。 どれほど歩いても山中からは抜け出せない。より深い場所にいざなわれている気がしている。(やはり、あの時に……) ふいに霧が湧いて出て、視界が悪くなった折に奇妙な感覚に捉われた。まるで、違う世界に踏み込んだように、空気が一瞬にして変化したのだ。 わずかな変化だったが、勇猛な武将であり気配を察知するに長けている幸村は、それに気づいた。 来た道を振り返っても、なにが見えるわけでもない。ただうっそうと茂った草や、背の高い木々が並んでいるだけだ。「困った」 声に出して言ってみる。有能な己の忍、猿飛佐助が聞きつけてこないかと、少しの期待があったのと、己の気持ちを落ち着かせるための呟きだった。「立ち止まっておっても、仕方がないしな」 癖のある茶色の髪を左右に振って、幸村は歩きはじめた。ひと房だけ長い後ろ髪が、獣の尾のように揺れている。服装はいつもの戦装束ではなく、山袴に武者草鞋。獲物は狭い場所でも振るうことのできる、柄の短い槍だった。 獣道を見つけて、そこを通っていた幸村の目に、草に埋もれかけている細い道が映った。近づいてみれば、人が草を踏んだ後がある。足跡の向かう先に顔を向けて、そちらに行ってみることにした。 道は細いが、途切れることなく続いている。やがて、古寺の姿が見えた。ほっと息をついた幸村は、とりあえず休息をとることに決めて、人の気配の感じられない広縁に声をかけた。「頼もう!」 声は柱にぶつかってこだました。しばらくすれば、奥からサワサワと衣擦れの音がして、ひとりの僧侶が顔を出した。年のころは二十歳後半か三十路過ぎ。キレイな禿頭に柔和な笑み。身なりは貧しいが、清潔だった。「このようなところに、人が来られるとは……迷われましたか」「いかにも。某、真田源次郎幸村と申すもの。しばし休息をさせていただきたく存ずる」 僧侶は笑みをたたえたまま、眉をひそめた。「なにか、不都合でもござるのか」 それならばあきらめようと言いかけた幸村の口が、動かなくなった。とまどっていると、傍に来た僧侶の手が幸村の頬を包んだ。「これもなにかの縁でしょう。どうぞ、ここに惑うものたちを慰める手伝いを、していただけませんか」 問いを発しようにも、喉が凍りついたように動かない。(なんだ、これは) 出せぬ声が聞こえたのか、僧侶はうなずいて幸村の瞳の奥を覗き見た。「どうやら、ここに迷いし者たちが、あなたを気に入ってしまったようです。どうぞ、奥へ」 誘われると、体が勝手に動いた。草鞋を脱いで上がると、内陣へ誘われる。そこはガランとして暗く、なにもなかった。湿っぽい空気が漂い、槌と草の匂いが充満している。僧侶は部屋の四隅にある灯明に火を入れた。すると、ちいさな仏像がポツンと置かれているのがわかった。黒ずんでいる上に距離があるので、なにの像なのかはよく見えない。「これが、ここの御本尊、と言っては妙ですね。これは仏の姿ではありませんから」「仏では……ない?」 かろうじて声が出た。僧侶は答えず、幸村の傍に来る。「どうぞ、ご協力ください。これは、あなたのためにもなることです。ここに淀むものを成仏させなければ、あなたも戻れないのですから」「悪霊が、ここにおると申されるか」「念、と言ったほうが正しいでしょう。魂魄そのものではなく、魂魄からはがされたもの。魂魄から置き去りにされたもの。あるいは、捨てられたもの」 僧侶の手が幸村の袴にかかった。迷いなく脱がされて、ギョッとする。「な、にを」「ここに凝っている念を満足させ、成仏させるのですよ」 逃れようと思うのに、脚はまったく動かなかった。着物どころか下帯まで外されて、裸身になった幸村の鍛え抜かれた肉体に、僧侶は目を細める。「なるほど、これはこれは。念が気に入るのも、無理のないこと」「いったい、なにをなさるおつもりか」「念が望むものを与えます」「某を、供物にすると?」 声がかすれた。僧侶はちょっと首をかたむけて、ほほえんだ。「命が奪われることは、ございませんよ」 懐から鈴を取り出した僧侶の指が、幸村の喉にかかる。指先が若さにはちきれそうな皮膚をなぞり、盛り上がった胸筋を滑って乳嘴に到達した。「愛らしい色をなさっていますね。まだ、無垢なのでしょうか」 意味わからない幸村は、眉をひそめた。僧侶は鈴についた紐を乳首にかけると、軽く縛った。痛くはない。もう片方にも鈴をつけて、納得顔になった僧侶は竹筒を取り出した。蓋を開ければ、ほんのりと鼻の香りがした。「香油、というものです」 説明をしながら、僧侶は香油を乳首に塗った。クルクルと指の腹で揉みこむようにされて、奇妙な感覚が生まれた。「んっ、ぅ」「感じるものがあれば、声を抑えず放ってください。それが念仏の変わりになります」「わかりませぬ……なにゆえ、某は身動きができぬのか……その、香油というものと鈴の意味は……」「あなたの体が動かないのは、ここに淀む無数の念のせいですよ。あなたを欲しがっている」「鈴は?」「祓うために必要な道具なのですよ」 しゃべりながらも、僧侶は乳首をいじり続ける。やがて幸村の乳首はぷっくりと赤く膨らみ、細かに震えはじめた。「は、ぁ」 甘やかな疼痛が胸先から全身へと広がっていく。それは下肢に血を集めて、股間を熱く硬くした。己の変化に、幸村は羞恥を覚えて下唇を噛んだ。「う……っ」「こちらの準備も、よさそうですね」 僧侶の手が下に伸びる。ひざまずいた彼は、香油をたっぷりと陰茎に垂らすと、蜜嚢を揉みながら幹に香油を擦りつけた。「そ、僧侶殿……っ、は、ぁあ」 巧みな指の動きに、幸村の喉が震えた。離れたいのに体はやはり動かない。自由の利かぬ体が、望まぬままに高められていく。「おやめくだされ……このような、あっ、ああ」「僧侶は煩悩を捨てるもの。ですが、その煩悩は、どこに捨てられるのでしょう」 陰茎を愛撫しながら、僧侶は静かに語る。彼の手の中で、幸村の陰茎はいきり立ち、先端に欲液を浮かべた。それと香油が混ぜられ、塗り広げられる。「それが寄り集まった場所が、ここなのですよ」「ふ、ぁ……うっ、んっ、んう……は、ぁあう」 ガクガクと快感に膝が震えても、体が床に落ちることはなかった。なにかが幸村を支えている。震える体に取りつけられた、乳首の鈴が幸村の嬌声に合わせて可憐な音を立てた。「んっ、ぅ……ああ、もう……おやめ、くだされ」「ここまで昂らせたものを、いまさら止めるほうが辛いでしょう。さあ、こちらにも浄化の鈴を」 僧侶は細い竹ひごを取り出した。その先端に鈴がついている。それを迷うことなく、幸村の陰茎の口にあてがい、そっと押し込んだ。「ひっ、ぃ……あっ、ああ、あ」 顎をのけぞらせて目を見開き、幸村は淫靡な悲鳴を響かせた。擦られる尿道は先走りでたっぷりと濡れていて、竹ひごをすんなりと受け入れる。擦れると放尿時の開放感、あるいは射精時の快感に似たものに見舞われた。僧侶は竹ひごをしっかりと埋め込むと、陰茎の張り出しを指でくすぐり、蜜嚢の重みを手のひらで確かめた。「はふっ、ぅ……うう、んっ、ぁ、ああ……ひっ、ぁ、この、ような……あっ」 乳首と陰茎の鈴がチリチリと鳴っている。鈴の音と快感が幸村の意識に沁み込み、脳髄に刻み込まれた。「これほど凝っているのなら、もう充分でしょう」「え……あっ、なに……うっ、うう」 ガクンと膝が折れて、床に這う形になった。僧侶は手を下していないし、幸村もそう動こうとしたわけではない。けれど床に胸を押しつけ、尻を高く上げる格好になった。僧侶は幸村の背後に回り、尻を左右に広げた。「これは、締まりのよさそうな、可憐な菊花だ」「は、あうううっ」 香油を秘孔に注がれて、指を押し込まれた。ぬちゃぬちゃと入り口を擦られれば、甘い悪寒が背骨を駆ける。「おやめ……くだ、され……っ」「法悦を得られます。これも、人を救うものとお思いください。ここに淀む欲の浄化と、あなた自身が無事に戻るために必要なことなのです」「んっ、ふぅう……く、ぁ、あう、んっ」 秘孔に快楽を教え込まれる。僧侶の指は慣れた手つきで内壁を濡らして解し、幸村のそこを媚肉へと育てていく。「ぁはっ、は、ぁ……ああっ、あ、ふ、ぅう」 理性のほとんどを性欲にむしばまれた幸村は、金縛りの中でも微妙に動ける範囲で身もだえた。床に乳首の鈴が転げる。縛られた乳首に、紐が食い込んだり緩んだりした。鈴に圧迫されたり、解放されたりする乳首の感覚がたまらなく気持ちいい。幸村は無意識に、胸を床に擦りつけていた。腰が揺れれば、陰茎の鈴が鳴る。押し込まれた竹ひごと口の隙間から、ポタポタと液がこぼれた。「んぁ、はっ、ぁあう……あっ、ああぅ、んっ」 指ですっかりほぐされた秘孔は、ヒクヒクとねだるようにうごめいている。僧侶が指を抜けば、追いかけるように収縮した。「はふっ、ぅうん……あっ、あ」 幸村の体は完全に性欲に支配されていた。陰茎はこれ以上ないほどに張り詰めて、ビクンビクンと力強く脈打っている。凝り切った乳首も刺激を求めて疼いていた。破廉恥と羞恥を覚える余裕を、意識は無くしている。それでも僧侶が目の前の本尊を手にして傍に戻ったときは、目を見開いた。「なっ、あ……それ、は」 本尊は、陰茎の形を模したものだった。僧侶はそれを丁寧に両手で包んで幸村に見せる。「捨てられた煩悩の依り代ですよ」 僧侶は幸村の背後に戻ると、ひと息に本尊を秘孔に突き入れた。「ひぎっ、あ、が……ぁお、うっ、ふ、ううう」「ああ、喜んでいます。多くの煩悩が、あなたのぬくもりに包まれていますよ」 僧侶の声を合図に、ズルリと本尊がひとりでに動きはじめた。ズリッズリッと内壁を擦るそれは、だんだんと熱を持つ生々しい肉感に変化して、縦横無尽に幸村の秘孔を擦り、奥の扉を突き開く。「がっ、ぁは……ふ、あぁ、あっ、お、おぅうっ、く、ぅうううっ!」 激しい動きに、幸村の腰が激しく揺れて、チリンチリンと鈴の音が間断なく流れた。絶頂が近づいてくるのに、出口は竹ひごでふさがれている。しかし堪えられるものではなく、ゴリッと奥をえぐられた瞬間、幸村の目の奥で白い火花が散った。「ひっ、ぃあぁああああ――っ!」 喉を開いて悦楽の咆哮を上げる。ビクビクと腰を震わせると、秘孔が絞まった。陰茎が震えて子種を放とうとするのに、竹ひごが邪魔をする。押しとどめられた子種は陰茎をさらに膨らませて、幸村の理性を壊した。「はひっ、ひぃあぁあ、あっ、ああっ、あ」 怨念の依り代は本物の肉欲と化して、幸村の内壁を蹂躙し続ける。幸村が絶頂を迎えようと、動きが緩まることはなかった。木彫りの本尊から放たれることのない、幻の熱波が内壁を濡らして満たす。香油が粟立ち、幸村の内壁はもはや淫靡な肉壺となってしまった。「ひふぁああっ、あ、はぁうううっ、んっ、んう……ひはっ、ぁ、ああうう」「凝った怨念が、勇躍していますね。さて……拙僧も相伴に預からせていただきましょう」 僧侶はおもむろに陰茎を取り出すと、幸村の顔を持ち上げ、快感のせいで閉じることもかなわなくなった口に押し込んだ。「ぉぐっ、う……んぶぅうっ、お、おふ……っ、ふ、ぉ、おっ、ぐううっ」 陰茎の先が上あごを擦り頬裏を押し上げて喉を突く。唾液が湧いて、反射的に飲もうとした口は陰茎をしゃぶることになった。「ああ、いいですね……気持ちがいいです」「ぐっ、ふぅう……んぁ、はっ、ぁひぃいっ」 僧侶の手が伸びて、乳首にかかる。ひねられれば快感が脳天を突き抜けた。悲鳴を上げた幸村の口から、唾液と僧侶の先走りが混じった液がこぼれ出る。もはや呑み込む余裕すらなくなった幸村は、本尊に溜まった欲望と僧侶の獣欲に翻弄されるだけとなった。「んはっ、はぅうっ、ぁ、はひぃ……あ、はぁうううっ」 過ぎた快楽に涙をこぼし、幸村はひたすらもだえた。鍛え抜かれた肉体は簡単に力を失うことはなく、欲望を受け止め続ける。望まぬままに肌は適応し、悦楽を味わった。理性のかけらも霧消して、幸村は淫らな獣として生まれ変わった。「ぁはぁうう……はひっ、ぁ、あはぁうううっ、ん、くひぃい」 焦点を失った濡れた瞳にぼんやりと、無数の僧侶の姿が映った。そのどれもが劣情にまみれた顔をして、幸村に挑もうとしている。幸村は唇を笑みにゆがめて、挑戦を受け入れた。乳首と陰茎の鈴が鳴る。幾度も絶頂を迎えては、出せぬ子種が体に逆流している錯覚に見舞われて、幸村はもはや自分が何者であるのかも忘れた。 わかるのは、終わりのない快感の愉悦と鈴の音だけ――。「う……ん」 目を開ければ、川のほとりだった。額に手を当てて、幸村は深呼吸をした。奇妙な夢を見ていた気がするのだが、どんなものであったのか思い出せない。 傍らには仕留めた魚が縄に繋がれていた。新鮮なうちに戻らねばと、幸村は立ち上がる。(いったい、なにゆえこのようなところで眠ってしまっていたのだろう) 首をひねりながら屋敷に戻った幸村は、濡れ手拭いで体を磨き、着替えを済ませて部屋に上がった。 その途中、鈴の音が耳に触れた。ぞわりと肌が粟立って、奇妙な悪寒が背骨に滲む。「なんだ?」 つぶやいても、わからない。ただ、悪寒は嫌悪するたぐいのものではなかった。むしろ歓迎すべき――追いかけて求めたくなるような、甘やかなものだった。 首をひねって、幸村は胸に手を乗せた。乳首が疼痛に震えている。「幸村様。大福を、お持ちいたしましょうか」「ああ、頼む」 気のせいかと笑みを浮かべた幸村の肌の奥には、しっかりと教え込まれたものが静かに息づいていた。 2018/03/03