猿飛佐助は、いそいそと入浴を済ませて着物を着替え、主人の部屋に向かっていた。 任務が終われば、思う存分ねぎらうという約束を取り付けていたのである。 (俺様、優秀だから、なんてことない任務だったけど、報酬があるってなると、やっぱり気合の入れ方が違ってくるよね) などと、足取り軽く廊下を進みながら考える。実際、今回の任務は通常よりもずっと早く成し遂げていた。それに付き合った部下は大変であったが、いつも以上に真田忍の長であり、主である真田幸村の腹心と称されてさしつかえない佐助が張り切っているのだから、水を差すわけにはいかなかった。 かくして、しっかり任務をやり遂げた佐助は意気揚々と、ここ甲斐を治める武田信玄への報告を済ませて身支度を整え、主であり情人でもある幸村から、艶っぽい褒美を受け取る高揚に身を包んでいた。 幸村の部屋にたどり着く前に、佐助は庭先で得意の得物、二槍の代わりに棒を振りまわす幸村を見つけた。ニンマリとして声をかける。 「だーんなっ」 声が弾んでしまうのは、致し方ない。ニマニマしながら、振り向く幸村をながめる。汗みずくになった肌は、ほんのりと赤く上気している。色事など、なにも知らないような無垢な瞳と、年寄りも幼く見せる頬の丸み。キリリとした眉に、茶色のくせ毛。ひと房だけ長い後ろ髪が揺れて背中に収まる様子に、それが床に広がる姿を思い浮かべた。 「おお、佐助。帰ったのか」 「帰ったし、大将にも報告を済ませてきたよ」 「ぬっ、そうか。ならば佐助、相手を致せ」 ニコニコと棒の先を向けられて、佐助は片手をひらりと振った。 「やだなぁ、旦那。そのまえに、俺様をたっぷりとねぎらってくれるんだろ?」 「ぬ?」 「約束。俺様が任務をがんばったら、ご褒美に、たっぷりねぎらってくれるって」 「おお、そうであったな」 小首をかしげた幸村がパッと笑顔になったので、不安を覚えた。 「ねえ、旦那。俺様に、なんでも好きなようにって、言ったよね」 「うむ。言うたぞ。給金は弾めぬが、のんびりと休むことも給金と代わらぬ報酬だと、お館様に申しておいた」 「あー……えっと、それって」 「今日より10日、しっかり休養を取れとの仰せだ」 満面の笑みで告げられて、佐助はガックリと肩を落としつつ、そんなこったろうと思ったとボヤいた。幸村がキョトンとする。 「どうした、佐助。うれしくないのか」 「いやぁ、まあ……うれしいっちゃあ、うれしいけどさぁ。それって、旦那がねぎらってくれるってのとは、違うよね」 「う……むう、そうか」 「そうそう。お休みをくれたのは大将なんだから、さ。でも、俺様をねぎらうって約束をしてくれたのは、旦那でしょ」 「たしかに、そうだ。では、手合わせの相手は無しでいい。ゆっくり休め、佐助」 そうじゃないんだよなぁ、と、ぼやきながらうなじに手のひらを置いて、ニッコリとする。 「手合わせは、思いっきりしたいんだよね」 挑むような、剣呑な光を瞳に浮かべても、幸村は少しも気づく様子がない。いつものことだと、佐助は幸村を手招いた。不思議そうな顔をしたまま近づいてきた彼の後頭部を掴んで引き寄せ、口を吸う。目を白黒させて、とっさのことに反応できないでいるのをいいことに、舌を伸ばして口腔をむさぼった。 「んっ、む……ぅ……ふ、ぅ」 鼻から息を漏らす幸村の目に、艶めいたものが滲むまで執拗に口内をまさぐってから、顔を離した。 「全身で、たっぷりとねぎらってくれるだろ? 旦那」 なにかの見本にできそうな、見事な笑顔を浮かべて見せれば、幸村は満面を朱に染めた。 「ぬ、ぅ……それは」 「約束したよねぇ?」 「ぐ、ぬ」 「だから俺様、張り切ってお仕事がんばったんだけどなぁ」 「それゆえ、お館様にお前を休ませたいと」 「旦那が、俺様を、たっぷりと、ねぎらってくれるって、約束だったよね」 一言ずつ区切って強調すると、幸村はなにも言えなくなった。主の性格は知り尽くしている。うつむいてしまった幸村の顔を、すくい上げるように覗き込んだ。 「ねえ、旦那。旦那は俺様とするの、嫌い? 忍風情にって思ってたり……する?」 「そのようなこと、あるはずがない」 「じゃあ、ねぎらって?」 「なれど、疲れておるのではないか」 「それとこれとは別だって。ほら見て、旦那。俺様ってば、楽しみすぎて準備万端」 風呂に入り、着替えまで済ませたのだと主張すれば、ふいっと背を向けられた。 「わかった。ならば、俺も準備をしてくるゆえ、部屋で待っていろ」 「無理。待てない」 手を伸ばして引き寄せ、抱きしめる。着物の合わせ目に手を入れて、盛り上がった胸筋をつかんだ。 「さ、佐助」 「旦那の匂い、すごいする」 首筋に顔を伏せれば、身じろぎをされた。片腕を腰に回して耳朶を噛む。 「んっ、佐助」 さきほどの口吸いで淫靡な感覚を起こされた体は、どこも敏感になっていた。ちょっとの刺激で艶めいた声が漏れる。もっとその声を聞きたくて、耳に舌を入れて、胸先を指でつまみながらささやいた。 「もっと、旦那の匂いを嗅がせて?」 「ふ、風呂に入ってくるから、待っていろ」 「いいよ、そんなの」 「おまえは入ってきたのだろう?」 「どうせ、汗だくになるんだから……終わってから、ね?」 「ぐ、ぬぅ……あっ、んんっ」 キュッと胸先を指で潰すと、甘い悲鳴がこぼれ出た。佐助の股間に血がめぐり、硬く大きくなったそれを押しつける。 「ほら、旦那……俺様、もうこんなになってるの……すんごい期待して帰ってきたんだぜ? だから、もう待てない」 息混じりに切なくささやけば、ゴクリと幸村の喉が鳴った。 「わ、かった……だが、せめて部屋で」 緊張に上ずった声に興奮が増し、嗜虐心を煽られる。 「待てないって言ったろ?」 「ぅあっ」 クリッと胸先をひねれば、可愛い声が上がった。もっともっと意地悪をしたくなって、腰の手も胸にあてがい、両方をつまんで転がす。 「んっ、ふ……ぅ、佐助……部屋、に」 「ダメ」 「なにゆえ……あっ」 「約束を忘れていた、お仕置き」 「ひぅうっ」 左右同時に強く潰せば、甘美な悲鳴が上がった。ゾクゾクと背骨に薄暗くて甘い悪寒が走った。 「はぁ、旦那……その声、もっと聞かせて?」 ねだると口を閉じられた。硬く結ばれた唇と、しっかり閉じられたまぶたがいじらしい。手首を掴まれ、腕を解こうとされたので耳朶を噛みつつ乳首をひねった。 「は、ぁう」 「約束、だよね? 思う存分って」 そのままクリクリと乳首をこねると、幸村の声が震えた。 「は、ぁああうう、んっ、ぁ、佐助ぇ」 「なぁに、旦那。約束、思い出した?」 「俺は、このようなつもりでは」 「俺様がよろこぶことっていったら、これ以上のものはないと思うけど?」 うなじに軽く歯を立てれば、短い悲鳴を上げられた。佐助の股間はすっかり準備を整えて、幸村を刺し貫く短槍が熱く天を向いている。それを背中に押しつければ、幸村の喉が鳴った。 「ふっ、ぁ……わか、っ……から、部屋に」 「俺様、我慢できないって言ったろ?」 胸乳にあった手を下ろして、布の上から幸村の股間を握ると、しっかりと硬く熱くなっていた。 「旦那もすっかりその気なんだし、さ?」 「することは、かまわぬ。なれど、ここでは」 「大丈夫だって……誰も来ないよ。俺様が旦那のところにいたら、用事を聞きにくる必要なんて、ないんだからさ」 「んっ、ぅ……しかし」 「期待しながら戻ってきたんだから、俺様のワガママ聞いてよ、ね?」 「ひ、ふぅっ!」 強く股間を握れば、高い悲鳴が幸村の喉で弾けた。クックと喉を鳴らして、今度は優しく撫でさする。 「は、ぁうう……ふ、くぅ……佐助ぇ……部屋、に」 「無理だって。ああでも、旦那が俺様のをしゃぶってヌいてくれたら、部屋に行く余裕、出るかも」 意地悪く耳元でささやいて体を反転させる。キュッと股間の上部をつまめば、ビクンと背をしならせた幸村の膝が崩れた。縁側に手を乗せて荒い息を吐く姿にニンマリしながら膝をつき、股間をあらわにする。 「ほら、旦那。俺様、もうこんなになってんの。痛々しいくらい、反り返ってるだろ?」 目の高さにあるそれに、幸村が目を丸くする。ずいっと腰を寄せれば、顔を引かれた。 「ねえ、旦那ぁ」 ねだるように呼べば、幸村の手がのろのろと持ち上がり、佐助の腰にかかった。おっ、と期待をよぎらせた佐助の短槍が、幸村の唇になぐさめられる。 「んっ、ふ……う……は、ぁ……んっ、んっ」 口を大きく開き、飴をねぶるように熱を味わう幸村の目が淫靡に濡れている。胸乳をいじられ乱れた襟元が開いて、肩甲骨が見えていた。もっともっと淫らな空気に埋没したくて、佐助は腰で揺れる頭を両手で包み、慈しむ。 「ああ、いいよ……旦那。すごく、気持ちいい。ねぇ、旦那も気持ちいい? 旦那、口の中をグチャグチャにされるの、好きだろ」 ビクンと硬直されはしたが、返事はなかった。幸村は黙々と陰茎を舌でなぐさめている。滲んだ先走りを舐めとり、先端を吸って口内で扱く幸村の尻が揺れているのに目を細め、佐助は熱い息を吐いた。 「旦那、ちょっと乱暴なことするけど、ごめんね」 頭を固定し、グッと腰を押しつける。くぐもったうめきを聞きながら、腰を前後に動かして口内を陰茎でかき乱した。 「ぐっ、おぐ……ふ、ぅ……うう、む……う、うんぅ……ぐっ、ぉう」 苦しげなうめきを上げる幸村の目尻から涙があふれる。陰湿な高揚に見舞われて、佐助は精を漏らした。 「く、うう」 「ぐっ、げふ……んっ、うぅ」 「飲んでくれたんだ? ありがと、旦那」 クスクス笑いながら額に口づければ、濡れた瞳で見上げられた。とろけた表情に血が滾り、股間の興奮が蘇る。 「約束したから、部屋に行こうか」 脇に腕を入れて体を起こし、そのまま肩に担いで部屋に入る。床に転がして障子を閉め、振り向いて見下ろした。 「それじゃ、あらためて」 膝をついて手を伸ばし、帯を解いて布を剥ぎ取る。 「旦那ってば、俺様をしゃぶって下帯こんなに濡らしちゃったの?」 「う……」 指摘されて体を丸める主の反応が愛らしくて、佐助は胸をときめかせつつ下帯も剥ぎ取ると、お返しとばかりに陰茎にむしゃぶりついた。 「ひはっ、ぁ、ああ……さすっ、ぁ、ううんっ、く、はうう」 強すぎる刺激にのたうちまわる腰を押さえつけ、口内で激しく扱きながら吸い上げれば、幸村はあっけなく絶頂を迎えた。 「ふふ、旦那も限界だったんだねぇ」 唇を舐め、いそいそと脚を持ち上げて尻に触れる。まだ絶頂の余韻に浸って弛緩している内腿に唇を押し当てて、丁子油を秘孔に垂らした。ヒクッと反応した孔口に指を添え、クルクルと撫でてから指を沈める。 「ひ、ぁう……んっ、ぁ、はう……うっ、くぅ」 甘い声を聞きながら、ウキウキと内壁に丁子油を塗り広げてほぐしていく。絶頂の余韻を引き延ばすように内側を刺激された幸村の陰茎から、ダラダラと先走りがあふれていた。すっかり淫蕩に沈んだ表情に胸を高鳴らせつつ、準備を整えた佐助は幸村の痴態に硬さを取り戻した短槍を秘孔に添わせ、肉壁で扱くために根元まで押し込んだ。 「ひぎっ、ぁくぅうう」 「は、ぁ……旦那、あっつい……ああ、いい……んっ、俺様、溶けそう」 息を詰まらせ、縦横無尽に内壁を刺し貫いて、締めつけを堪能する。ヒクつきながらまとわりついてくる、やわらかな熱が心地いい。汗を滴らせるほど夢中になって、佐助は幸村を堪能した。 「旦那、すご……最高のねぎらいってね」 「ふぁあ、さすっ、ぁ、けぇ……ぁあううっ、く、ぁあんっ」 がっつかれる幸村は快楽に身をくねらせて、佐助の腕から逃れようとする。それをしっかり抱きとめて、佐助は奥を貫いて欲望を吐き出した。 「くっ、う」 「はぐぅうう」 目を白黒させながら絶頂を迎えた幸村の口を吸い、ゆるゆると腰を動かしてわななく内壁と余韻を味わう佐助の顔は、うっとりと充実していた。 「はー、もう、こんなふうにねぎらってもらえるんなら、俺様もっともっと、がんばれちゃうかも」 幾度、体を重ねてもウブなままの幸村が、こういう意味で“ねぎらう“と言ったわけではなとわかっていながら、押し切った佐助はニコニコしながら頬をすり寄せた。 「そういえば、旦那。俺様のために10日も休みを申請してくれたんだっけ。てことは、たっぷり10日間、俺様をねぎらってくれるってことでいいんだろ?」 期待を込めてささやけば、ギョッとした目を向けられた。反論しようとする口を唇で塞いで、満面の笑みを向ける。 「俺様、大感激ってね。ありがと、旦那」 返す言葉を思いつけずに、口をパクパクさせている幸村の頬に唇を押し当てて、しっかりと抱きしめる。 腕の中で不平のうめきを漏らしつつ、なんだかんだで許してくれる愛しい情人のぬくもりを胸に刻む佐助の瞳は、障子越しに射し込んでくる夕茜の向こうに、血なまぐさい戦場を見据えていた。 幸福なひとときは、戦場でのきらめきよりも深く強く、佐助の魂を抉り、なぐさめる。 2018/05/02