不思議なものを拾ってしまった。 廊下にゴミが落ちていると思って手を伸ばしたが、未開封のものだった。 小首をかしげた真田幸村の、クセのある茶色の髪がかすかに揺れる。首を戻すと背中に流れている、ひと房だけ長い部分がしっぽのように動いた。 手にしたものは小さなパッケージだった。個包装の二連。薬のパッケージのようだが、薬には見えなかった。直径四センチ弱と思える、半透明な円形のものが包まれている。 未開封であるのなら、パッケージから取り出して必要な分だけ持ち歩いていたのだろう。そう考えても、これがいったい何なのかがわからなければ、持ち主を探す手がかりすら見つからない。(佐助に問えば、わかるだろう) 幸村が常々、博学であると思っている幼馴染であり先輩でもある猿飛佐助に聞いてみようと、拾ったものをシャツの胸ポケットに入れようとしたとき、声をかけられた。「Hey、真田幸村」「おお、政宗殿」 ぱっと笑顔を浮かべた幸村に声をかけたのは、同学年でライバルと自他共に認めている、伊達政宗だった。端麗な顔立ちにサラサラとした黒い髪、右目の眼帯が彼の存在を目立たせている。 彼もまた、自分が持っていない知識がある。これが何なのか聞けば、わかるかもしれないとポケットに入れかけたものを彼に見せた。「これを拾うたのでござるが、何かわからず困っており申した。政宗殿は、存じてござろうか」 ギョッとした政宗に、キョトンと丸い目をまたたかせる。政宗の口の歯がニヤリと歪み、たくらみ顔に変わった。「Fum……で? アンタはそれを、どうするつもりなんだ」「何かがわかれば、落とし主を探す手がかりになろうというもの」「持ち主を探すつもりか。やめておけ」「なにゆえでござる」「見つかりゃしねぇし、見つかったとしても、返されちゃあ決まりが悪いからだよ」 つまり政宗は、これが何なのかを知っているのだ。「政宗殿、これはいったい何なのでござるか」 問えば、彼の腕が肩に回った。がっしりとつかまれて、前かがみにされる。「あんま人に見せびらかすモンじゃねぇ。使い方を教えてやるから、放課後、ひそかに調理実習室に来い」「調理実習室?」「そうだ。猿にも気づかれるんじゃねぇぞ」 ひそめた声にうなずけば、政宗は口笛でも吹きそうなほど上機嫌な様子で、じゃあなと去って行った。「佐助にも、秘密」 ぽつりとつぶやいた幸村は、拾った謎の物をながめた。 放課後、政宗よりも先に調理実習室に到着した幸村は、拾った物をためつすがめつながめていた。色々と考えてみたが、まったく想像もつかなかった。声をひそめた政宗の様子からして、おおっぴらにしていいものではないらしい。(佐助にも、気づかれぬようと言われた) それほど繊細に扱わなければならないものなら、なおさら落とし主は困っているのではと眉間にシワを寄せる。(やはり、誰の物か探したほうがよいのではないか) そう考えていると、政宗がやって来た。「政宗殿」「猿には、勘づかれていねぇらしいな」 周囲を見まわした政宗は、ツカツカと近づいてくると調理台と壁の間――廊下のどの角度からも見えなくなる死角にしゃがんだ。幸村もそれに習う。「政宗殿、やはり持ち主を探しませぬか」 いきおい、小声になってしまった。キリッと眉をそびやかして言えば、首を振られた。「言ったろう? 探されても、迷惑なだけだってな」「なれど、このように人目をはばからねば、これが何かを教えられぬ物ならば、重要な道具ではござらぬのか」 フンッと鼻を鳴らして、政宗が「まぁな」と答える。「なれば」「重要は重要だが、落としたヤツはさほど困ってはいないだろうぜ。コンビニでも買えるからな」「なんと。そうなのでござるか」「ああ。だから」 政宗の左目に剣呑な光が宿り、幸村は目をまたたかせた。「政宗殿?」「これをどう使うのかを、あんたに教えてやろうと思ってな」「えっ、あ……っ」 床に尻もちをつかされたかと思うと、股間をむんずと握られた。そのまま揉みしだかれて、敏感な箇所への刺激に太ももが震える。「っ、政宗殿……何を……ぁ」「暴れるなよ? 誰かに気づかれちゃあ、困るからな」「んっ、ぅ……放して、くだされ」 政宗の手は器用に波打ち、幸村の急所を責めてくる。あっという間に熱を持って硬く育った箇所が布を押し上げ、幸村は真っ赤になった。「んっ、ぅう」「こんなもんで、充分だろう」「え?」 息を荒らげた幸村は、さらにギョッとすることになった。「ま、政宗殿っ!」「Do be quiet 静かにしろっつってんだろ」 ベルトに手をかけられ、ズボンのファスナーを下ろされたかと思うと、下着ごとずらされた。大きく育った男の証が、元気よく飛び出してくる。「う、ぁ」 わなわなと唇を震わせる幸村の目に、獰猛な笑みをひらめかせて唇を舐める政宗が映った。その唇に、幸村が拾った物がくわえられ、片手と唇で封が開けられる。「よく見ていろよ? これは、こうやって使うんだ」「っ、あ……な、なんと」 取り出したものを滾りにあてがわれ、それにすっぽりと包まれて目を丸くする。「どうだ。キツくはなさそうだな」「これは、どういった用途で使うのでござろうか」 使用されても、目的がわからない。ほどよく絞めつけ、包んでくるこの物体は、なんのために装着するのだろう。「こうするんだよ」「えっ、あ……ああっ」 ふたたび政宗の手に掴まれて、上下に扱かれる。彼の手首を握って、押しのけようとしても指に力が入らなかった。「んっ、ぅ……は、ぁ、政宗殿……おやめ、くだ、され……っ、んっ、んんっ」「用途を教えてやってんだ。おとなしくしていろ」 そう言われて、わかりましたと冷静になれるはずもない。翻弄される幸村の先端から透明な液があふれはじめた。「はっ、ぁ……ぅうっ」 追い立ててくる手の動きが変化する。片手が先端にかぶせられ、張り出しから先を手のひらでこねられた。「ふぁっ、あ……んんっ、ぁ、はぁう」「So Cute 気持ちがいいのか?」 いい、とも、悪い、とも答えられるはずもなく、必死に奥歯を噛みしめて声を抑えようとする。それをからかうように、政宗の指は的確に快感を追い詰めて、とうとう幸村は耐えきれなくなった。「っ、は、ぁああっ」 ビクンと腰を跳ねさせて、精を漏らす。余韻に震える箇所を根元からゴシゴシと強く絞られ、筒内のすべてが吐き出された。「はぁっ、は……はぁ、あ」「ほら、見てみろよ? 真田幸村」 うながされ、上気した目で股間を見れば、放ったものはかぶせられたものの先端に溜まっていた。「こ、れは?」「見てのとおりだ。これをかぶせていりゃあ、この中に溜まるだけで出て行かない」 そのために使うものだと示されても、いまいちピンとこなかった。表情でそう察せられたのだろう。腰を掴まれ、くるんと反転させられる。這う形になり、下着とズボンをさらに下げられてうろたえても、しっかりと肩を抑え込まれてしまって起き上がれなかった。「く、不覚」 クックッと政宗が喉を鳴らす。「まだ、よくわかっちゃいねぇんだろ? だから、より詳しく教えてやるよ」 ゴトリと音がして、政宗がなにかを調理台の下から取り出したのがわかった。ついで、尻の谷に冷たくトロリとしたものがかけられる。「ひぁっ、あ……なにを」「女は興奮すりゃあ濡れるモンだが、男のココはそうはいかねぇからな」 なにを言っているのか、さっぱりわからない。問おうとすれば、尻の奥に何かが入った。「うぁっ、あ、政宗殿……っ、何を」「ほぐしておかないと、辛いだろうからな。 まあ、massageだと思えばいい」「まっ、さぁ……じっ、ぁ、んぅっ」 なぜ、そんなところをマッサージされなければならないのか、と思ったところで、内部にあるのが政宗の指だと気づいてうろたえた。「ひっ、政宗殿、ぁ、そのようなところ……指っ、ぁ」「いいから、おとなしく俺にまかせておけ」「ま、かせて……おけませぬぅ、ううんっ」「いい声で啼くじゃねぇか? ほら……もう少しだ」「んぁあっ」 なにが「もう少し」なのか、ちっともわからない。あの道具の使い方と、尻をまさぐられるのと、どんな関係があるというのか。「そろそろ、いいか」 つぶやきとともに指が抜かれて、ホッとしたのもつかの間。ゴソゴソとなにやらしている気配と衣擦れの音がしたかと思うと、尻に硬いなにかが押し当てられた。「息を抜いてろよ? いくぜ」「ぐっ、ぁ、はぁお、お……ううっ、が、ぁうっ」 目玉が飛び出しそうなほどの圧迫を感じて、大きく口を開いてうめく。ズッ、ズッと押し込まれると息が詰まった。自分の体が内側からすべて支配された気分になって、こぶしを握って低くうなると、背中にピッタリとのしかかられた。「ふ、ぅ……入ったぜ? 幸村」「ぅ……なに、が……で、ござろう」「わからないのか? 俺の、コレだ」 ギュッと股間を握られて、小さな悲鳴を上げる。そのまま扱かれると、ゾワゾワと悪寒に似た快感に襲われた。「は、ぁう……っ、んっ、政宗殿、の……?」「ああ、そうだ。アンタと俺は、いま、繋がってる」「ふっ、ぁ……政宗殿、なにゆえ……あっ、ああっ」 政宗が揺れて、内側が擦られる。奥をゴリゴリと刺激されると、勝手に尻が浮き上がった。股間を扱かれながら内部をえぐられ、体から力が抜ける。「は、はぁううっ、あ、ぁぐっ、う……ふ、ぁあ」「くっ、すげぇ……絞めつけ……っ、は、うねって、絡みついてくるな」「ひ、ぁうっ、政宗殿ぉ、あっ、く、はぁ……あっ、は、ぁうっ、はんっ、はっ、はぁあう」 息苦しさが抜けて、めまいがするほどの快楽に支配される。いつしか幸村は体を揺らして、政宗の動きに合わせていた。 口笛を吹いた政宗の動きが激しくなり、ガツガツと突き上げられて声を放つ。自分の内側がうねりながら、呑み込む熱を歓迎して絡んでいるのがわかった。「あっ、ぁ、そ、れがし……はっ、ぁあっ、あっ」「イイのか? なぁ、幸村……気持ちが、いいんだろう」「んっ、ぅ……あっ、政宗殿……はっ、ぁ、ああっ、あ」 気持ちがよかった。突き上げられ、擦られて、奥をこじ開けられるたびに目の奥で火花が散って、一瞬の恍惚が味わえる。トロリと視界がとろけて滲み、口からは舌がのぞいた。淫蕩に堕ちた顔で体を揺さぶる幸村の姿が、ステンレス製の調理台に映っている。その上にのしかかる、獣欲を満面に浮かべた政宗の荒々しい表情も。「ふはっ、は、ぁあうっ、く、ぁあんっ、あっ、あっ」「はっ、ぁ……もう、出そうだ」 低く落ちてきた乱れた声に、本能が同意した。幸村の劣情も臨界点が近づいている。「く、ぅ」 強く奥をえぐられて、幸村は高い遠吠えを放った。「は、ぁあぁあああ!!」 ビクビクと体中で痙攣し、キュウッと肉筒が絞まって政宗の熱を絞り上げる。うめいた政宗の体が硬直し、食いちぎろうとするほど強くすがりついた肉壁が擦られた。「は、ぁあぁあう」 極まりの恍惚の先でも快感を与えられ、声を震わせてすべてを吐き出し終えた幸村は、ぐったりと横たわった。ズルリと政宗が抜けたのを感じても、指先ひとつも動かせない。フウッと息をついた政宗に肩を掴まれ起こされる。「おい、真田幸村」 肩を抱かれて耳に息を吹きかけられると、ゾクゾクした。気だるさを押しのけて眼球を動かすと、艶やかに光る切れ長の瞳と視線がぶつかる。「こういうことをしても、後始末が楽で済む。まあ、ほかにもいろいろな理由があるがな。使い方、わかったか?」 うっすらと汗ばんだ前髪をかきあげられて、うなずくと額に唇を寄せられた。「OK、真田幸村。ついでに、アンタと俺はいま、セックスをした。アンタにわかりやすく言えば、身を繋げた、とでも言えばいいか? それが、どういう意味かわかるか」 心地よい気だるさに包まれている幸村の思考は鈍く、答えを見つけられなかった。「俺とアンタは、よりsteadyな関係になったってことだ。Rivalであり、恋人でもあるってことだな」「こ、い……びと?」「そうだ。こういうことをしたってことは、そういうことだろ?」 そうなのか。よくわからないが、そうなのかもしれない。「真田幸村」 ぼんやりしていると、政宗の顔が近づいてきた。きれいな顔だと思っていると、唇がやわらかく押しつぶされる。そっと口の中に息を吹き込まれて、幸村は目を閉じた。ふわふわとして、心地いい。そのままゆっくりと、意識が淡く溶けていく――。 2018/06/06