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水菓ー酔菓ー


 ガサガサと夏の陽気に生い茂った草をかき分けて進む主、真田幸村のひと房だけ長い後ろ髪が揺れるのを眺めながら、猿飛佐助は後をついていた。満面の笑みで、付き合ってくれと言われたが、何の目的で山に入っているのかわからない。
(まあ、旦那が何か急に思い立って、行動しちゃうのは今にはじまったことじゃないけど)
 のんびりと昼寝でもしたいなぁと思いつつ、太陽にも負けぬほどに笑み輝いた顔を見ては、つい口元をほころばせてしまう自分に呆れもする。
 惚れた者の負けとは、よく言ったものだ。
 佐助は忍の身でありながら、主の幸村に心底、それこそ骨の髄まで惚れこんでいた。むろん、尊崇という意味も含めての、肉欲の対象としてでもある。そして幸村は初心でありながらも佐助からの気持ちを受け入れ、彼もまた自分の忍を無二の存在として慕っていた。
 幸村の向かっている先から、水の流れ落ちる音が聞こえてくる。人の通る道などない山奥を進む佐助は、忍働きの一環として、このあたりの地理を熟知していた。
(目的地は、この先の滝かな)
 見当をつけた佐助は、なぜそこに行くのかを考えた。
(暑いから、水浴び……は、別にこんな奥まで入らなくったって川はあるし、魚でも捕まえに来た、にしては、魚籠を持っていないしなぁ)
 佐助ならば、必要な道具をその辺の蔓などで作るだろうと考えている可能性もある。
(俺様のこと、なんでもできると思ってるもんな)
 できないことはないと頼もしく思ってくれるのはありがたいが、あまり過剰に期待されても困ってしまう。
(ま、俺様が優秀過ぎるから、悪いんだけどさ)
 フフンと鼻を鳴らした佐助は、草を分けて滝つぼの前に出た幸村のうれしそうな背中を見た。振り向いた彼は、佐助の予想した通りの表情を浮かべている。
「ついたぞ、佐助」
 この場所を知らないとでも思っているのか、得意気であり誇らしげでもある愛しい人の気分を害さぬよう、佐助は目を細めた。
「すごい滝だねぇ、旦那」
「うむ。水も澄んでおるし、魚の泳いでいるのも見える」
 浅瀬に足先を浸せた幸村が、水面の奥に視線を沈める。佐助は横に並んで、のんびりとした声で同意した。
「こっちだ」
 言って、幸村は滝に向かった。流れの奥に洞窟が隠れていることを、佐助はむろん知っている。が、幸村の気持ちを尊重して知らぬふりしてついていく。
 こまかなしぶきを浴びながら、水の裏に回ると温度がグッと低くなった。涼しい空気にふっと息を抜いて、洞窟の奥に向かう幸村を追う。洞窟はほんの少しの湿り気を帯びた空気をたたえていた。
 幸村はずんずん奥へと進んでいく。佐助もどんどん奥へ入った。やがて足元に水気を感じられなくなり、淡い闇に包まれると、幸村が足を止めた。夜目の利く佐助の目は、わずかな光を集めて幸村の姿をしっかりと認識した。
「ここならば、涼しくていいだろう」
 にこにこする幸村の言葉を受け止め、佐助はちょっと考えた。腰を下ろした幸村に、座れと誘われて膝を折る。
「もしかして、旦那。俺様が暑いだなんだってぼやいていたから、ここに連れてきてくれたの?」
「うむ。佐助は、夏が苦手だろう?」
「苦手と言うか、まあ、そうだねぇ」
 暑苦しいと表現するにふさわしい主と、そのまた主である武田信玄こと、お館様のやりとりは、周囲の気温をグッと上げてしまうほどに灼熱で、だからついついボヤいてしまうのだが、幸村はそれを気にしていたらしい。自分のために山に入り、涼しい場所を見つけて案内してくれたのかと思うと、佐助の心はクスクスとやわらかくくすぐられた。
「そっか。ありがと、旦那」
「うむ。その、先に来て、ウリでも冷やしておけばよかったのだが」
 言葉尻を濁した幸村に、佐助は充分だよとほほえんだ。
「旦那が欲しいってんなら、どっかで調達してくるけど?」
「それでは、ここに案内した意味がないではないか。春先からずっと、働きどおしだからな。しばしの休息をと思うたのだ」
 なるほどと、佐助は顎を動かした。ねぎらってくれる気ならば、甘えることとしよう。実際、佐助はよく働いている。休む間もなく、あちらこちらに飛び回っている。
「そういうことなら」
 主と忍、という関係だけを見るのなら、佐助が幸村の前で姿勢を崩すなどありえない。だが、ふたりの間では遠慮は無用だった。佐助が目の前で惰眠をむさぼっていたとしても、幸村は少しも咎めはしない。もっとも、そんな状況には万に一つもなり得ないが。
「はぁ……涼しいねぇ」
「うむ。いい心地だな」
「ほんと。うっかり眠ってしまいそう」
「眠ってもよいぞ」
「冗談」
 クスリと鼻を鳴らした佐助は、闇を透かして幸村を眺めた。光のほとんど届いていない洞窟内では、幸村の色は藍色に近い黒に浸食されている。けれど佐助の頭の中に、しっかりと彼の茶色の髪やとび色の瞳、日に焼けた肌の色は収められている。
(旦那は、俺様のことが見えているのかな)
 ちょっといたずらがしたくなって、佐助は手を伸ばした。
「ん?」
 頬に手の甲を当てれば、幸村が首をかしげた。視線が、佐助の視線を追ってくる。
(ああ、そっか)
 丸みのある頬と無垢な態度から、年齢よりも幼い印象を人に与える幸村だが、戦場に出れば紅蓮の鬼と称されるほどの勇猛さを発揮する。その彼が視線や気配を察せられないはずはない。見えなくとも、見えてしまうのだ。
(それなら)
 ニヤリとして、佐助は幸村の頬から首に手を滑らせた。肩に手を乗せれば、幸村が目をまたたかせる。
「どうした、佐助」
「ん? ねぎらいついでに、甘えさせてもらおうかなって考えてるとこ」
 目をまんまるにした幸村は、すぐに破顔した。
「そうか! 甘えたいのか。うむ、かまわぬ。遠慮をするな」
 胡坐をかいた膝をポンッと叩いた幸村は、子どもが親に甘える姿を想像したのだろう。誰かを頼ったり甘えたりすることのない佐助が、自分にはそうしたいと言ったことが、よほどうれしいらしい。背筋を伸ばして待っている彼の好意を、佐助は思うさま受け取ることに決めた。
「それじゃ、遠慮なく」
 ほくそ笑んで、幸村の太腿に手を乗せる。膝枕でもされると思っているのか、幸村に警戒はない。佐助はそのまま顔を伏せ、すばやく彼の帯を外すと下帯をずらして、まだ柔らかな男の印に顔を伏せた。
「んなっ?! さ、佐助っ」
 声を裏返して慌てても、遅いとばかりに口に含んだものを吸う。ビクリと強張った太腿を撫でながら、佐助はチュクチュクと主の短槍に甘えかかった。
「んっ、う、佐助……っ、なにを」
 問いには言葉ではなく、行為で示した。唇で肉の短槍をしごけば、早々に隆起する。口の中いっぱいになるほど力強くなったそれから顔を上げ、佐助は唇を舐めて主の顔を見た。真っ赤になって下唇を噛んでいる。羞恥と快楽を堪える表情に、ゾクゾクと背骨を震わせた佐助のイチモツが頭をもたげた。
「旦那ぁ」
 甘えた声で首筋に唇を寄せると、ビクリと肌が震えた。腰を抱いて洞窟の壁に追い詰めれば、幸村の手が佐助の肩に触れる。
「佐助……っ」
「こんなところで、なんて咎めないよね? だって、旦那が俺様を誘ったんだぜ」
「俺は、誘ってなぞおらぬ」
「甘えていいって言っただろ?」
「これは、甘えるのとは違う」
「旦那の意図と俺様の受け取り方が違ったんだねぇ」
 手のひらで勃起した短槍の先端を擦れば、幸村の鼻から色っぽい息が漏れた。そのまま手の中に握って傘の部分をこね回せば、先走りがトロリと浮かぶ。空気と混ぜながら揉み続ければ、幸村の体が小さく揺れた。
「は、ぁ……っ、佐助」
「こんなにしているんだから、ダメなんて言えないよなぁ?」
 ニヤニヤすれば、幸村が息を呑んだ。つぐまれた唇を舌でなぞって、ギュッと手の中で肉槍の穂先を潰す。
「ひぅっ!」
 熱っぽい息を吹きかけて舌先でつつき、唇を開けろと示せば、観念したのか性欲に負けたのか、幸村が口を開いた。奥へ舌を差し込んでまさぐれば、甘い声が喉から湧き出る。
「んっ、ふ……ぅう……ふっ、んっ、ん」
 艶やかで控えめな官能の声を聞きながら、佐助はうっとりと目じりを下げた。幸村の先走りで指先を濡らして、胸当ての隙間に差し込む。
「摘ままれたがって、主張してるよ? 旦那のココ」
「はうっ、ぁ、そん……っ、ことは」
 くりっと胸の色づきを指の腹ですり潰せば、幸村は奥歯を噛みしめた。
「そんなことは? ないのかなぁ。俺様の指に、こんなにしっかり掴まれているのに。ねぇ、旦那。好きだろう? ここをたっぷりといじくられるの。こねくり回されたら、旦那の魔羅はうれしそうにビクビクするんだから、さ」
「ふっ、ぁ……そ、ぁ、言うな」
「なんでぇ? 旦那が認めないから、俺様はきちんと教えてあげようとしてるだけだろ。な、旦那」
 淫靡な笑いに声を震わせて唇を舐めれば、幸村の目がトロリと溶けた。若い体は欲望に正直だ。ましてやここは、誰はばかることもない山奥の洞窟の中。遠慮をする理由はひとつもない。
(正直に、いやらしくなっちまいなよ。旦那)
 性欲などみじんもなさそうな幸村が、奔放に咲き乱れる姿を求めて、佐助は彼の顎を吸い、深い接吻を与えながら指にかかる蕾をたっぷりともてあそんだ。彼の先走りで濡らした指で強く刺激しても、滑りがいいので痛みにはならない。逃げようとする尖りを追いかけて遊ぶ佐助は、幸村の耳朶に唇でたっぷりと甘え、耳の中に舌を差し込み、熱っぽい息を注いだ。
「はぁ、旦那……もっと、いやらしい声を聞かせて?」
「っ、あ……そのような、う……くぅっ」
 身をよじる幸村の陰茎は、先走りをとめどなくあふれさせている。チラリと目をやって、佐助は息を震わせた。
「旦那の魔羅、泉みたいにスケベな汁を湧きたたせてるねぇ」
 ささやけば、幸村の体が強張った。
「なっ、そん……っ、何を言っておる」
「俺様、優秀な忍だからさぁ、旦那がどんなふうになっているのか、昼間の庭とおなじくらい、はっきりと見えてるんだぜ?」
「っ、う……な、そんっ、あ……っ、は、ぁあっ」
 言葉で犯せば、幸村の肉欲が激しく震えた。破裂しそうなほどに張り詰めている箇所は、このまま言葉と胸への刺激だけで絶頂に到達しそうだ。
「旦那、気持ちいい?」
 問うても、答えるはずはないと知っている。だが、そう言えば幸村は無意識に快楽を拾おうとする。理性で堪えながら、肉体を本能に従わせる姿はこの上もなく淫靡で、佐助の心身を昂らせた。
「ぅ、く……っ、う、は、ぁあ……さ、すけ……っ、んっ、ぅう」
「なぁに、旦那。何か、して欲しいことでもあるの?」
「く、ぅうんっ、あ、は、ああっ、も、もう」
 全身に力を入れて小刻みに震える幸村が、何を求めているのかわからない佐助ではない。だが、言わせたいのでとぼけると、幸村は硬く目をつぶってしまった。フルフルと揺れるまつ毛がいじらしく、佐助の胸と股間はキュンとした。
(たまんないなぁ)
 舌なめずりをしながら、指の中の突起をはじく。ビクンと震えた幸村は、もう限界を超えているらしく、目じりに涙が浮かんでいた。それを舌でぬぐい、さらに胸の性感帯を責め立てれば、幸村はいよいよつらくなったようで、佐助の腕をしっかりと掴んで哀願した。
「ぁ、佐助ぇ、もぉ……っ、イ、イカせてくれ」
 切羽詰まった主の泣き顔に、佐助の股間がこれ以上ないほどたくましくなった。ゴクリと唾を呑み込んで、佐助は艶然とほほえむ。
 佐助ほど夜目の利かない幸村に、見えているはずはないのだが、気配を察したのか、飢えた顔で淫靡にとろけた。
「いいよ、旦那。思いっきり出させてあげる」
 チュッと鼻先に軽く唇を押しつけて、佐助は幸村のトロトロに濡れそぼっている陰茎にしゃぶりついた。
「んはっ、は、ぁあ……あっ、さ、すけぇ……っ」
 高い声が洞窟の壁に反響する。佐助は頭を上下させて、張り詰めた幸村を追い立てた。尻を揺らして快楽を追い立てた幸村は、ほどなく佐助の口内に精を漏らした。
「くはっ、あ、あああ……っ!」
 放ち終えて呆然と弛緩した体を横たえ、足を持ち上げて尻の谷に顔を伏せる。舌を伸ばして菊花に触れて、ヒダを舐め広げれば幸村がかすかな声を上げた。
「あっ、は……ぁ」
「旦那のここで、今度は俺様を気持ちよくさせてくれよ?」
 放ち終えて垂れた陰茎越しに言えば、幸村は呆けた顔のままかすかに首を動かした。許可をしたのか、ただ動いただけなのか判然としないが、佐助は了承と受け取った。
 グニグニと舌を動かし、たっぷりと秘孔を濡らして、懐から軟膏を入れたハマグリを取り出す。傷薬だが、潤滑油がこの場にないのでしかたがない。たっぷりと指に掬って尻の奥に塗りこめば、幸村の陰茎がムクムクと硬く育った。蜜嚢を口に含んでしゃぶりつつ、佐助はたっぷりと時間をかけて幸村の秘孔を解した。短い声を上げる幸村の陰茎が、すっかり力を取り戻して先走りを垂らすようになるまで、丹念に肉壁に軟膏を塗りこんでほぐせば、そこは淫靡な蠢動をはじめた。指に絡む肉壁に笑みを浮かべて、佐助はそこに己の猛りをあてがった。ビクッと幸村の太腿が緊張する。
「いい? 旦那」
「聞くな」
 胸を喘がせる幸村が腕で顔を隠す。クスクス笑いながら体を追って、腕に唇を当てた。
「なんで、顔を隠すのさ? こんなに暗いのに」
「お前には、見えるのだろう」
「そうだけど、ほかには誰も見てないよ」
 だから見せてと腕に軽く噛みつけば、首を振られた。
「そっか……じゃあ、しかたないなぁ」
 顔を隠す余裕もないほど、気持ちよくさせればいいだけだ。グッと熱を押し込めば、幸村の喉が鳴った。肉壁に奥へと誘われるままに、佐助はずんずん深く押し入り、肌をぴったりと密着させた。
「はっ、ぁ……あ、ん、ぅうっ」
「ふふ、旦那のなか、すっごく熱い……俺様、溶けそう」
 ゆるゆると腰を動かせば、小刻みな嬌声が響いた。幸村の腕は外れない。焦らなくてもいいと、佐助はじっくり幸村の内側をあじわった。内壁が佐助にすがりつくようにヒクついて、幸村の陰茎が苦し気にわななくと、幸村の腕がゆるんだ。顔をすり寄せて腕を外せば、とろけた表情が洗われる。フフンと鼻息を漏らして、佐助は勇躍した。
「ぁはっ、あっ、が、ぁううっ、ひっ、は、ぁんっ、はんっ、あっ、ああ」
 肌のぶつかる音がするほど、激しく体を打ちつけて奥をこじ開ければ、幸村はあられもなく首を振って快感をほとばしらせる。泳ぐ手に肩を掴まれた佐助は、爪が肌に食い込むのは気持ちがよすぎるからだと知っている。血が滲むにまかせて幸村の好きにさせる代わりに、佐助もまた幸村の内側を好きにした。蹂躙される幸村は、喉をそらして背をしならせて、尻を動かし乱れ悶えた。全身で快楽を味わう彼の、本能をむき出しにしている姿に煽られて、佐助はますます夢中になって、汗がにじむほどに幸村を追い立てながら己の欲望を高めていった。
「はんっ、はっ、あ、さすっ、佐助ぇ、あっ、ああっ、くぁ、あっ、ふ、はぁあうううっ!」
 幸村の絶叫に、佐助の極まりの声はかき消された。たっぷりと奥に注いだ佐助は、すがる肉壁でゆるゆると欲を擦って残滓をすべて吐き出すと、ぐったりしている幸村の頬に唇を寄せた。
「ふぅ……すごく、気持ちがよかったよ。旦那」
 とろんと淫蕩に濁った目が動いて、佐助を見る。焦点の合っていない瞳は、それでもしっかりと佐助を捕らえていた。
(見えていないはずなのに)
 洞窟の暗闇では、何も見えていないはずなのに、幸村の視線をはっきりと感じられる。心をしっかりと掴まれているのだと、佐助は苦笑した。
(かなわねぇよなぁ)
 この人にかかっては、自分はとてつもなく弱く甘えた者になってしまう。
(旦那は、ちっとも気がついていないみたいだけど、さ)
 それでいい。そのままでいてほしいと願いながら、佐助は幸村を抱きしめた。
 火照った体に、洞窟内のひんやりとした空気は心地いい。岩場でごつごつしているので、寝心地は悪くないが忍にとっては気にするほどのものでもない。しっかりと大切な人の頭を抱きしめて、少しでも寝心地がいいように肩に引き寄せる。幸村の目はもう半分ほど閉じていた。
「ゆっくりしよう、旦那」
「……ん」
 とろけた声が返ってきたかと思うと、幸村のまぶたが閉じられた。そっと眉間に唇を寄せて、佐助も目を閉じ彼の呼気に呼吸を合わせる。
 ゆらゆらと意識が幸福にたゆたって、佐助の口の端は自然とほころんだ。
(俺様が、こうして甘えているだなんて言っても、旦那は信じてくれないだろうなぁ)
 愉快に満たされ、佐助はつかの間の休息に向けて意識を手放した。

2018/08/21



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