ふらりふらりと町中を、前田慶次と小猿の夢吉はうろついていた。立ち並ぶ店の間を行きかう人々は、笑みをかわし、しっかりと声を張って商談や冗談を繰り出している。それらを眺め行く慶次の唇は笑みを浮かべているのに、瞳は彼らの笑みの裏にある暗いものを映して、曇っていた。 楽しげにしている人々の、にぎわっている店と店の隙間の暗がりに、打ち捨てられたボロ切れのような人間が、うずくまっている。ここを抜けた先にある荒寺や端の下、雑木林の中には、そんな人間が大勢、行く先もすることもなくたむろし、うずくまっている。雨露や風を遮るために、寺社の影や軒下に入るほかは無い、働く場所も金も無い人々。 戦で家を焼かれ、田畑を失い、家族を亡くし、または自らの肉体の一部を無くした人々が、あちらこちらにうずくまっている。人買いから逃げてきた女子どもも、少なくない。物乞いをしたり、盗みを働いたり、春をひさいだりして、飢えから逃れている。そんな彼らを目にしながら、何も出来ない自分を歯がゆく思いつつ、慶次は歩いていた。彼らをどうにかする方法は無いかと、考えながら。「このクソガキッ!」 怒声に、またかと半ばうんざりして、慶次は顔を向けた。食うに困った、仕事を見つける事の出来ない、年端もいかぬ子どもは盗みを働き腹を満たす。なんとか穏便に子どもを逃がしてやろうと、慶次が足を踏み出す前に、子どもを捕まえた振り売りの男の腕を、見知った男が眉を下げた笑みを浮かべ、掴んでいた。「家康」 小さく呟いた慶次の言葉に追随するように、肩に乗っている夢吉が小さく鳴いた。慶次の目に、天下人となり城の奥にこもって政務を行っているはずの男、徳川家康の姿があった。 さわぎに気付いた人々が、慶次の前を塞ぐ。その人々のさざめきが邪魔で、家康と子どもを捕まえた男の声が聞こえない。けれど、人よりも体躯の良い慶次は彼らの姿だけは人の頭の上から、見る事が出来ていた。威勢よく怒鳴る男に、家康が唇を弧の形に歪めたまま、困っている。まっすぐすぎる家康は、こういう場合をうまく切り抜けられないのだろう。家康との間に少しわだかまるものを――かつての親友を、自分が止められなかったがゆえに家康の手にかけさせてしまったという引け目と恨みを――胸に抱えている慶次は、声をかけることをためらった。慶次の横顔を、夢吉が少し心配そうに見上げる。 ふ、と困り顔の家康が助けを求めるように野次馬に目を向けて、慶次に目を留めた。人より体躯が立派な上に、高々と結い上げた髪に鷹の羽飾りを差すなど派手な姿をしているので、慶次は人ゴミの中でも、すぐにそれとわかる目立つ様相をしていた。目があった、と慶次が認識したのと同じ頃合で、家康が笑みを浮かべて親しげに腕を振り上げた。「慶次! 助けてくれ」 野次馬が割れて、慶次の道が出来る。これでは家康を助けないわけには行かない。「なんだぁ。慶次さんの知りあいかぁ」 慶次が近寄れば、子どもを捕まえていた男が仕方なさそうに肩をすくめた。「悪いね、源さん。その子ども、俺の顔を立てて、許しちゃくんないかい」「ったく。仕方ねぇなぁ。おい、ボウズ! 二度と盗みなんか、働くんじゃねぇぞ!」 男が手を離せば、子どもは脱兎のごとく走り逃げた。「慶次さんに礼ぐらい、言って行きやがれってんだ」 ったくよぉ、とブツブツ文句を言う源さんを、まあまあと慶次がとりなす。「すまない、慶次。――源さん、だったか。さっき、子どもが盗んだ品の代金なんだが」 言いながら家康が懐に手を入れると、源さんが「よせやい」と鼻の下をこすった。「慶次さんの知りあいなんだろ。いいよいいよ。そんな野暮な金は、受け取れねぇ。――ったく、天下が統一されたかなんだか知らねぇがよ。終わったなんだってのはお武家さんばっかりで、あのガキらみてぇなのを作っといて、ほったらかしなんてよぉ。民を守るための戦だっつって、なんにもしねぇ。儲かったのは一部の商人ばっかりだ。何が天下泰平だってんだよなぁ」 源さんの言葉に、慶次がぎょっとして家康を見る。家康は、苦い顔をして源さんを見ていた。 騒ぎが終わったと、野次馬が三々五々散っていく。源さんも振り売りの商いに戻り、慶次と家康が残された。「あ、あのさ、家康」「慶次」 いいさした慶次の言葉を遮り、家康がさわやかに笑んだ。「少し、付き合ってくれないか」 境内の茶屋に腰掛けて、家康と慶次、夢吉は茶を啜り団子をかじっていた。うらうらとのどかな風が吹く境内は、静かだ。こんなふうに茶店の出る寺には、行き場のない人々は住みつかない。追いたてられると、わかっているからだ。「さっきは、本当に助かった」「俺は、なんにもしてねぇよ」「慶次が来たから、あの源さんは引き下がってくれたんだ。慶次は人の心を掴むのが、うまいんだな」「そんなこと……」 いいよどんだ慶次の脳裏に、豊臣秀吉の姿が浮かぶ。共に笑い、いたずらをして回った。その中で、彼は恐ろしい目にあった。あわせてしまった。それがゆえに、力を求める男となり、愛おしい人を手にかけ、情を省みなくなった。そして、絆を謳う家康の手にかかり、命を閉じた。 自分がもし人の心を掴めるのなら、どうして秀吉の心を掴み、止める事が出来なかったのだろう。「キィ」 慶次の心を察した夢吉が、そっと慶次の膝に小さな手を乗せる。「ワシは、どうも人の心を掴むのは苦手らしい」 家康の胸には、袂をわかった石田三成の姿があった。秀吉の元にあった頃、共に武勇を誇っていた三成は、ひたむきに秀吉を信じていた。豊臣を去る理由を、彼に伝えようとした。自分の想いを彼に知って貰おうとした。けれど彼に自分の言葉を聞いて貰うことすら出来なかったと、家康は拳を握る。 ふ、と二人の体に冷たい風が吹く。沈黙が落ちる。「お茶のおかわりは、いかがです」 茶汲娘が声を掛けて、慶次が笑みを浮かべた。「ああ、それじゃあ貰おうかな」 にっこりとして、茶汲娘が温かな茶を二つ、盆に乗せて来る。空になった湯飲みを返し、慶次は湯気の立つ湯飲みを家康に差し出した。「話が、あるんだろ」 唇を笑みの形に歪めた家康が、慶次には泣いているように見えた。「何か、あったのかい」 声を落として問う。天下を統一したとは言っても、すべての領主や武将が家康に従うと決めたわけではない。各地では、小さな諍いが絶えないと聞く。絆を第一とする家康の政策に意を唱えるものもいるだろう。政務を行っている中で、何か問題でも起きたのだろうか。「ああ、その……」 言いよどむ家康の姿に、生来のおせっかいが慶次の中でムクムクと頭をもたげた。「遠慮せずに言えよ。家康、とと」 呼んでから、慶次は周囲を見回す。天下人となった家康を狙う誰かが、いないとも限らない。あわてて口を抑えた慶次に首を傾げた家康に、慶次は耳打ちをする。「家康が、こんなところにいるって知ったら、変な気を使う奴も出るだろうからさ」 なるほど、と家康が頷く。「ワシがどんな人間かを知らないから、怯える人もいるかもしれないな」 慶次が危惧したのはその逆なのだが、家康に言われてなるほどそういう理由もあるかと思う。勇猛な武将らを纏め上げた男は、どんなに恐ろしい人なのだろうかと思う人間もいるだろう。「そうだなぁ。町中に出るんなら……徳川だから、徳さんとでもしておけば、いいんじゃないか」 慶次の提案に、数度確かめるように口の中で「徳さん」と繰り返した家康が、頷く。「うん、そうさせてもらおう」 笑いあい、改めて慶次は家康に体を向けた。「で。何があったんだ? 徳さん」 いたずらっぽい慶次に、家康が解れた笑みになった。「さっきの子どもなんだが」「ああ」「ああいう子どもは、たくさんいるだろう」「子どもだけじゃない。あちこちの寺社や端の下に、行くところのない人々がたくさんいるよ」 重く、家康が頷く。「彼らの居場所を、作りたいんだ」 目を丸くして慶次が身を乗り出すと、家康が首を緩く振った。「まだ、どうするか決まっていない。空き地に小屋を立てて、炊き出しをし、飢え死にをしないように難民の住処をと思うのだが、現実のものとするには、色々な障害がある」「具体的な構想なんかは、あるのかい?」 ふう、と息を吐いた家康が、湯飲みに口を付けた。「この先に、広場があるだろう。あそこに小屋を立てて、家のない人々の住まう長屋を作ろうと思ったんだ」 けれど、と家康が太い溜息をつく。「その傍に住む人間は、治安やなんやで許可をしない、か」 家康の憂いを察した慶次が言えば、家康がうなだれるように頷いた。「それと、金もいる。その金をどうするのか、どのくらいの規模なのか、どれほどにかかるのか」 ああ、と今度は慶次が頷く。戦が終わったところで、どこも自領の建て直しに忙しい。金を出す余裕があるなら自分の領土を癒すために使うだろう。それを無理やりに課税徴収として集める事は、家康に出来る芸当ではない。眉一つ動かさずに冷徹に采配を振るう毛利元就ならば、してのけるかもしれないが――。「ん?」 何か、慶次の中にひっかかるものがあった。 毛利元就の姿を、慶次は胸に浮かべてみる。彼の姿に、何か思うところがあった。何か、何か――毛利元就に関する事で、この案件を解決できる何かがあるような。 考えに意識を向けた慶次を、家康と夢吉がじっと見つめる。はっと思いついたらしい慶次が立ち上がり、手のひらを打った。「そうか! そうだ家康。これなら、なんとかなるかもしれない」 夢吉が団子を掴み、慶次の腕に乗った。「行くぞ、家康……じゃなかった。徳さん! おもんちゃん、御代、おいておくよっ」「行くって、どこに行くんだ慶次」「いいからいいから」 家康の手を引いて、慶次はウキウキと走り出した。「ってなことで、皆々様。どうだろう」 茶屋を飛び出した慶次は、大店に駆け込んで折入って相談があるので、このあたりの大店の旦那は全員、集まってくれないかと頼みこんだ。慶次の頼みなら、と日ごろ揉め事などを治めて貰ったり、慶次の人柄にほれ込んだり、評判を知っていた者たちが時間を作り、座を設けてくれた。そこで慶次は家康を連れて、大店の旦那たちに町の整備をしてみないかと持ちかけたのだ。「けどねぇ、慶次さん。いきなりそう言われても、おいそれと店の金を出せはしないんだよ」「そうそう。こっちも商売人だし、何の見返りもないままっていうのは……いやいや。形のあるもの、って話ではなくですね。無形であっても、こっちの益だと感じる事さえ出来れば、問題ないというか、なんというか」 ちらり、と商人の一人が家康に目を遣る。慶次の事は知っていても、家康のことは何の説明も受けていない。これはいったい何者なのかと、その目が言っていた。 慶次に、話を振るまでどっしりと座って黙って笑っていればいいと言われているので、家康は黙って慶次と大店の旦那衆とのやりとりを眺めていた。「そこは、こっちもわかっているさ。何の見返りもない商売なんて、商売じゃないからさ。……けど、もし俺が今言ったことが、天下の徳川家康が考えていることだと知ったなら、どうだい」 場がざわめいた。旦那衆が顔を見合わせる。「徳川家康って、また大きな名前が出てきたが、慶次さんは徳川家康とも知りあいなのかい」「これでも、加賀は前田の身内なんでね」 いたずらっぽく笑んだ慶次が、家康を見る。「こっちに座ってる男の紹介をしないんで、皆、何処の誰かっていぶかってるんだろ」「説明を、してくれるのかい」「それは、この話に旦那方が乗るか反るかだね」 旦那衆が家康に目を向ける。家康は、にっこりと視線を受け止めた。「けど、慶次さん。その家康様が考えていることっていうのは、どういう根拠で言っているんだい」 家康から目を離さない商人が、声を慶次に向けた。「どこもかしこも、戦でひどいことにあって、侍じゃない人間が割を食ってることは、皆も知っているだろう」「おかげで、店のものを盗まれたり、荒っぽい連中が店先でわめいたりして、困っているよ。ああ、あの節は世話になったね。慶次さん」「いいってことよ。で、そんな状態じゃあ困るだろう。ってなもんで、皆もどうにかしてほしいと思っているんじゃないのかい」 旦那衆が、お互いの顔色をうかがいながら慎重に頷く。「それは、天下を取った男も同じってね。徳川家康が、絆を大切にしているってのは、皆も聞いた事があるだろう」 再び、旦那衆が頷く。「その天下人に、恩を売る事が出来る好奇だよ」 両手を広げた慶次の言葉に、旦那衆だけではなく家康も目を丸くした。「町を整備するっていう仕事が出来れば、行き場のない男たちに仕事が出来る。その日雇いの男たちを世話するために、女子どもも仕事が出来る。働く事が出来ると思った人間が集まって、出稼ぎに来る人も増えるだろう。そうなれば、そういうウワサを聞きつけた行商人もやってくるし、旅芸人も稼げると思って来る。そうなれば町の規模が大きくなって、ますます商売相手が増えるんじゃないのかい」「それは、まぁ」 旦那衆が、互いの腹を探りあうように視線を交錯させる。「けど、それには色々と問題があるだろう。人が増えれば、悪い人間だって入ってくる。そういうのを取り締まるのは、どうするんだい。それに、勝手にそんなことをして、どんな咎めを受けるか」 慶次が、ずいと膝を寄せて旦那衆の顔を順番に見て回る。「やってみなきゃ、結果はどうなるかわからない博打と同じさ。出費は安いもんじゃないし、うまくいくかどうかもハッキリとはしない。けど、この案に……いや、この俺に賭けてみるかどうか、決めてくれないか」 慶次の提案は、町の整備と寺子屋の建設。雇用と子どもたちの将来を作らないかと、彼らに持ちかけたのだった。それが完成すれば町の規模は大きくなり、人が増えれば客も増える。また、町のため、人々のために一役買ったと、一目置かれることにもなると、慶次は彼らを説得する。「町の整備なんかは、まあ問題ないとしても、寺子屋はどうなんだろうねぇ」「字の読み書きは必要ないなんて、言われやしないかねぇ」 支配者は、暗愚なものほど扱いやすいと言う。それを案じての発言に、慶次は自身満々に「大丈夫だ」と答えた。「読み書きやそろばんの得意な子どもを、自分たちの店の丁稚にして育てるのも、店のためになるんじゃないのかい」「それは、そうだが」「寺に寄進をするような気持ちで、俺に賭けてみてくれよ。時間はかかる。五年か十年はいると思う。けど、戦が終わった世の中なら、それが途中で崩されることはないはずだ」 どうだい、と慶次が言えば、旦那衆は誰が先に乗るか反るかを伺うように、目を配りながら頭の中でそろばんを弾く。慶次の話に乗った場合、いくら出資が出来るのか。どのくらいの見返りを見込む事が出来るのか。そして、慶次が自身満々でいる理由は、大丈夫だと言う根拠は何なのか。 家康が誰なのかを、旦那衆は知らない。家康は、慶次の話しぶりを感心しながら眺めていた。「慶次さん。もし、この話に乗るとして、どういう計画で進めていくのかを聞かせてもらえないか」「それは、乗ると話を決めたってことで、いいのかい」「こっちも、少なくない金額を出すんだ。いくら慶次さんの話でも、そうですねと簡単に納得して行動は出来ないんだよ」 その言葉に、他の旦那方も頷く。慶次が腕を組み、仕方がないなと言うように息を吐き、家康に目を向けた。いよいよ、彼の正体がわかるのかと、旦那衆が唾を飲む。「彼は、徳さん。俺の古い友人で、あの徳川家康に意見書を出せる立場の人間だ」 ざわりと、旦那衆の気配が騒いだ。「町中を見て回っている所に、盗みの騒ぎに遭遇してさ。そこで久しぶりに会って茶屋で話をしていたときに、町の治安には天下人も困っているって話になってさ。いずれ徴税とか治安のための命が下されたりするだろうって。けどその前に、旦那衆が町の治安を憂いてどうにかしようと考えたって形で意見書をまとめて提案すれば、お互い気持ちが良くなるんじゃないかと思ったんだよ」 動揺を押さえ込みながら、旦那衆が家康を見る。「その、徳さん。本当に、徳川家康という天下人に意見書を渡せるのかい」 渡せるも何も「徳さん」に渡すことは家康に渡すことなのだ。家康は、しっかりと頷いた。「ああ」 旦那衆に緊張が走る。それを察し、慶次が手のひらを彼らに向けた。「大丈夫。心配しなくても、徳さんはそんなに身分の高い人間じゃないから、大丈夫だよ。俺みたいなもんで、顔がきく風来坊って程度のものだから」 それを聞いて、旦那衆の緊張が解れた。「私らが治安のために考えた、という態で意見書を出せば、天下人に恩を売っておける、と慶次さんは言いたいんだね」 確認をするように、一言一言を確かめながら発した旦那に、慶次は深く頷く。ちらりと目を向けられた家康も、頷いた。「そういう意見書が届いたとなれば、徳川家康も喜ぶだろう。人々の思いが繋がり、助け合いとなり、絆を生むと」 その言葉に旦那衆は顔を見合わせ、一番年嵩の旦那が言った。「少し、時間を貰えないか」 そこで、この場はお開きとなった。 後日、慶次と共に「徳さん」こと家康は意見書を受け取り、城に戻って紐解き、返書を書いて懐に入れ、慶次と共に「徳さん」として旦那衆に届けた。 その帰り――「しかし、慶次。よく、あんなことを思いついたな」 数日前に共に茶を喫した茶屋に、二人と一匹は並んで腰掛けた。茶と団子を頼み、湯気を吹き冷ましてすする。「毛利の兄さんを思い出したのさ」「毛利殿を?」「そう。武力じゃなく、経済力や駆け引きで戦をしていた毛利の兄さんなら、どうするかなって」 歯を見せて笑った慶次が、団子にかじりつく。「商売人を動かすには、利益が必要だろう? 命令をして出資をさせるのは簡単かも知れないけどさ。それだと心の中にわだかまりが残る。けれど、自分たちがやったってなれば、誇らしくなるだろう。形が出来るのも、結果が出るのもうんと先のことになるけどさ。いわゆる先行投資ってやつで、五年後、十年後にどうなるかってのを考えたら、見返りは大きいというそろばんの結果が出るはずだと思ったんだよ」 感心した息を吐き、家康も団子に手を伸ばす。「すごいな、慶次は」「褒めるのは、結果が出てからにしてくれよ、家康。いや、徳さん」 くすりと笑みを合わせた二人は、悲しい人のいない世を――家康は、絆を胸に手を携えあう国を。慶次は、誰もが愛しい人と当たり前に笑い会える国を――胸に描いて、理想の国の眩しさに、柔らかく目を細めた。2013/12/13