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見た目は幸村 頭脳は弁丸

 山中を駆け回る主の姿を木上から見おろしていた猿飛佐助は、葉を揺らすことなく主の横に並んだ。
「旦那。この先、湿地だからね」
 すさまじい勢いで草々の間を駆け抜ける佐助の主、真田幸村は唐突に現れた佐助に驚くこともなく、追っている獲物から視線を外さぬまま、無邪気にも見える獰猛な笑みを口辺に漂わせた。
 戦場では雄々しい声を上げて敵兵の中に突っ込んで行く幸村だが、獣追いの時にそんなことをすれば、獲物をみすみす逃してしまうと知っている。なので、訓練を兼ねた狩りでの彼は、静かな覇気をまとう獣と化す。本能的にその場にそぐう自分となれる幸村を、佐助は頼もしく感じていた。
「足を取られるような真似はせぬ」
「だといいけど」
 駆けながらの返事には、一切の乱れも無い。佐助は軽く肩をすくめて幸村から離れ、見守ることにした。
 幸村が追うのは大鹿。
 佐助が上から姿を見つけ、幸村に伝えた。幸村にとってこの山は、幼い頃よりの遊び場なので、屋敷の庭のように気安い場所だった。佐助が忠告をせずとも、この先が湿地になっていることは百も承知だ。だが、万が一ということもある。
 幸村は熱くなりすぎると、周りが見えなくなるクセがあった。そのために、自分が目となり彼を支えるのだと、佐助は自負をするほどもなく自然と役割を意識に刻んでいた。先ほどの忠告も、一応の念押し程度のもので、さほど心配をしているわけではない。
 が、そうして楽観している時にこそ、思わぬ事態が訪れる。
 幸村が湿地に足を踏み入れて数歩進んだかと思うと、唐突に体勢が崩れた。
「っ!」
「旦那」
 瞬時に、佐助は幸村の傍に駆けた。しかし佐助が到達する前に、幸村は湿地に頭から突っ込む形で倒れてしまった。ゴスッと派手な音がして、幸村の動きが止まる。ふわりと、ひと房だけ長い幸村の茶色の後髪が、剣呑な音とはうらはらに、優雅な仕草で弧を描いて彼の背に落ちた。
「ちょっと、旦那。大丈夫?」
 太い倒木に思いきり頭をぶつけたらしく、幸村は意識を失っていた。彼は何に足を取られたのかと後方に目を向ければ、蔓が折り重なり、天然の罠のようになっていた。幸村はそこに足を取られたらしい。蔓の一部が不自然に飛び出ている。
 やれやれと嘆息した佐助は、幸村をひっくり返して髪の中を指で丁寧にさぐった。人の数倍頑丈な幸村のことだ。大事ないとは思うが、打ったと思われる場所が頭なので、一応の用心をしておいたほうがいい。
 大きな瘤はあるが、どこからも血は流れていない。倒木に鋭い枝が無くて良かったと、佐助は胸を撫で下ろした。もしもそれに刺さっていたらと、心配をしたのだ。
「さて、と。どうしたもんかねぇ」

<中略>頭を打った幸村の意識は、弁丸時代に遡り<中略>

 懐かしがりつつ、佐助は影に用意をさせた新しい着物を手に、外へ出た。幸村は言いつけどおり、少し窮屈そうにしながら桶の中におさまっている。
「ちゃんと、綺麗にした?」
「うむ。なあ、佐助」
「なあに、旦那」
 幸村の目が、素朴な疑問を宿している。こういう目をした幼い彼に、どうして雲は山にぶつかっても平気なのかなど、疑問に思ったこともないような質問をされたなと、佐助は笑みを深める。
「佐助も入れ」
「へ?」
「佐助も、早く脱いで入らぬか」
 好奇心いっぱいの瞳で、そんなことを言われるとは思わなかった。
「俺様は忍だから、主と一緒には入らないんだよ」
 何を期待して、そんなことを言われているのかわからずに佐助が答えると、幸村が頬を膨らませた。
「そんな顔をしても、だめ」
 そう言ってから、幸村の瞳に宿る疑問と好奇が気になって、佐助は理由を聞いてみることにした。
「なんで、俺様と一緒に入りたいの?」
「佐助も、もじゃもじゃなのか見たいのだ」
「もじゃもじゃ?」
 うむ、と言った幸村が立ち上がり、しゃがんでいる佐助の眼前に股間を突き出す。
「もじゃもじゃだ」
 幸村が指差すそこは、濡れた下生えがくろぐろと光っていた。予想外の行動に、佐助は完全に硬直してしまった。
「佐助?」
 幸村の濡れた指で茜色の髪を軽く引かれても、佐助は衝撃からすぐに戻って来られなかった。
 あの幸村が堂々と、自分の前に性器をさらけだしている。情交を恥じらい、幾度肌を重ねても、もどかしいほど初心な反応を示す、あの幸村が。
 ごくりと喉を鳴らした佐助は、何の反応も示していない柔らかな幸村の短槍に、そっと手を伸ばした。
「もじゃもじゃは、やはり佐助にもめずらしいのか」
 佐助の指が幸村の短槍に触れる前に、幸村はしゃがんだ。額がぶつかりそうなほど間近に現れた幸村の顔に息を呑み、佐助は正気を取り戻した。
「あ、ああ、ええと、その」
 無垢な幸村の瞳に、佐助の満面が熱くなる。
「どうしたのだ、佐助」
「ああいや。その……ほら、いきなり大人の体になっちゃったから、ビックリしちゃったなぁあ」
 佐助は幸村から目を離し、立ち上がった。わざとらしい態度でも、幸村は素直に受け取る。
「うむ。そうだな。俺も驚いた。大人になれば、もじゃもじゃになるのだな。それに、なにやら形も違っておるような気がするのだ。佐助も脱いで、もじゃもじゃなのか見せてみろ」
「お、俺様はいいよ」
「なぜだ」
「なぜって」
「俺は、佐助ももじゃもじゃなのか、気になるぞ」
 しゃがんでいる幸村の足の間に、佐助の目がチラリと向かう。肉感的な肢体に腰の辺りが熱くなるが、幸村の幼い表情に気持ちを沈めて、佐助は思考を回転させた。




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