胡坐をかき、その上に肘をついて、さらにその上の掌に顎を乗せた幼い忍――猿飛佐助は、拗ねたような怒ったような顔をして、少し年嵩の、現在ついている任務の隊長相手にボヤいていた。 「――って、信じらんないよな」 独り言のような自分の口調に、相手が目じりに柔らかな色を乗せていることに気付き、佐助は唇を尖らせた。 「何だよ」 「いや――」 少し目を伏せた相手に、不機嫌そうに言う。そんな佐助に、胸中の言葉を飲み込んだ相手は、目線で斜め下を指した。表情を消した佐助が、その視線を追う。その先に見えたものを確認しあうように、一度二人は目を合わせ、他の者とも視線を交わし、身を潜めていた木の上から、地上の闇に移動した。 思うよりも早く済んだ任務の帰り、ふと目の端に映った茶屋に意識を向けた佐助に気付き、他の面々が足を止める。 「何さ」 ニヤニヤとした気配に、唇を尖らせる。 「あそこに、茶屋があるぞ、佐助」 「だから、何さ」 「弁丸様に、お土産を買って帰ったほうがいいんじゃないか」 「なんで」 その問いには、誰も返事をしない。自分が買いに行くことを、当然のことのように待っている様子に嘆息し、佐助は忍姿から旅装束の子どもの姿に変わり、茶屋に向かった。その背中に向けられる柔らかな視線に、居心地の悪さを感じながら。 屋敷に戻ると、誰が教えたのか小さな塊が佐助を求めて転がるようにやってきた。否、直前でつまづいたソレは、まさしく転がり、あわてて両手を伸ばした佐助の腕の中に納まった。 「ちょ、危ないって」 腕の中に納まったものは、丸い目を幸せそうにヘニャリと細め、表情どおりの声を出す。 「おかえり、さすけ」 「――あ、えっと、ただいま、弁丸様」 にへら、とさらに蕩けそうな笑みになったかと思うと、弁丸がぎゅう、と強くしがみついてくる。それに応えるように抱きしめ返すと、からかうような視線を感じた。バツの悪い気分になりながら、腕の中の子どもを引き剥がし、不安そうな不服そうな顔に転じた彼に少し罪悪感を持ちながら、ことさら渋々といった顔を作る。 「大将に、報告しに行かなきゃいけないから――」 「それなら、俺たちで十分だから、心配しなくていいぞ、佐助」 「弁丸様、佐助は任務で疲れているので、お土産に団子を買ってまいりましたから、お茶を共にして、ゆるりと休ませてやってもらえませんか」 「え、ちょ――」 「うむっ!」 佐助の言葉をさえぎり、他の者たちの言葉に弁丸が元気よく返事をする。 「ぞんぶんに、ねぎろうてやるぞ、さすけっ」 張り切る瞳に、嘆息しながら笑んだ佐助は、ありがたき幸せ、とイヤミと冗談をこめて口にした。