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華精

 萌え出づ、とは、言い得て妙だ。山の春はまさに、冬の間に溜め込んでいた草花の息吹が噴き出して、冬の気配を吹き飛ばす。
 凍てつく季節に閉じ込められていた命が、一斉に開く気配に感化され、人々の心身も妙に浮き立つ。普段から運動量が多く、気配に敏感な者は、より強く自然が発する脈動の影響を受けていた。
「うぉおおおおっ!」
 朝の山中に響き渡る雄たけびを上げ、道なき木々の間を、草をかき分けて駆け抜ける青年の、ひと房だけ長い後ろ髪が揺れるさまは獣の尾にも見える。肉体の奥からふつふつと湧き上がる情動に身をまかせ、筋肉を躍動させる彼の名前は真田幸村。丸みの残る頬と好奇心旺盛な瞳から、年よりも幼く見られることのある彼は、ひとたび戦場に出れば若虎とも紅蓮の鬼とも称されるほどの力量を有する武将である。
「ふっ!」
 鋭い気合の息を発して、目の前に現れた巨岩に飛び上がり、奥にある滝へと向かう。喉の渇きを覚えていた幸村は、軽々と岩や木の根を飛び越えて小さな滝に到着し、流れる水を唇に受けて喉を潤した。
「ふう」
 グイっと腕で口を拭うと、深く息を吸いこんで草木の息吹を体の中に取り込んだ。
「はぁ……よい天気だ」
 息をつき、休憩をしようと手近な岩の上に腰を下ろした幸村は、日向のネコのように目を細めて春の気配を全身で味わった。
 凍てつくほどに冴え冴えとした冬の景色は、どこにもない。ゆるんだ空気に幸村の口許がほころびた。少し昼寝をしたいなと、幸村は大木の根に移動し、草の上に尻を乗せて幹に体をもたせかけると目を閉じた。
 うらうらと心地のいいぬくもりが、山を駆けた体を包む。しっとりと汗をかいた肌が落ち着いていくのと同時に、幸村の意識は眠りの世界へと沈んでいった。
 * * *

 ふと目を覚ました幸村は、伸びをして木漏れ日を確かめた。眠っていたのは半刻ほどだろうか。太陽の姿は木の葉に隠れて見えないが、それほど時間が経っているようには思えない。
 滝に近づいて水を飲むと、空腹を覚えた。普段なら、そろそろ帰っておいでと、団子のひとつも用意して、彼の忍であり腹心であり世話役でもある猿飛佐助が現れる。しかし佐助は、雪解けとともに活動を開始した各所の武将やならず者たちの動向を探るため、不在だった。
 春の山には食べられる野草がある。イタドリの若芽ならば生でも問題がない。多量に食べれば腹痛を起こすが、酸味を楽しむ程度ならばいいだろう。
(どこかに生えていればよいのだが)
 ついでに他の山菜も探して、土産に持って帰ろうか。
 足腰を鍛えるために山の中に飛び込んだ幸村は、新たな目的を見つけてほほえんだ。敬愛する武田信玄や、疲れて帰ってくるであろう佐助に、春の美味を味わわせたい。
 山菜の生えていそうな場所を求め、移動する幸村の鼻に甘い香りが触れたのは、手拭いで包み切れないほどの山菜を摘んだころだった。
(何の香りだ?)
 ふんわりと丸みのある甘い匂いは、花の香りらしいと判ずる。いままで嗅いだことのない匂いに惹かれて、幸村は足先をそちらに向けた。
 草を踏み、鼻をうごめかせて移動した幸村の目の前に、ツツジに似た花が現れた。巨木の幹に蔓が這い、赤い花がたっぷりとついている。朝顔のような蔓にツツジに似た花のある植物を見たのは初めてだ。
「なんと、あでやかな」
 花の大きさは子どもの手のひらほどだった。近づけば、むせかるほどに強い香りに包まれた。クラリとめまいを覚えた幸村は、奇妙に胸がときめく不思議に首をかしげながら、花に顔を近づける。よく見れば、立派な花柱を細い雄しべが茶筅のように守っている。花柱の頭は、傘を開く前のキノコのように先端がとがり、ぷっくりとふくらんでいた。ふくらみの下はくびれており、やわらかな曲線を描いて根元へと続いている。
 何かに似ている気がしたが、すぐには思い当たらなかった。
 雄しべは先端が細かな毛におおわれていた。それぞれが艶やかに濡れて見えるのは、蜜をたっぷりと有しているからだろう。
 手を伸ばして花弁に触れれば、ふつっと取れた。目をパチクリさせて、幸村は赤い花弁をながめた。花柱と雄しべを残して形そのままに取れた花弁の底に、わずかに液体がついている。くるりと花弁を反転させて根元を吸えば、ひどく甘い。
「うまい」
 相好を崩して、幸村は残された花柱と雄しべを見た。そこにはまだ、たっぷりと蜜が残っている。花弁を失っても、自分たちのすべきことは変わらないと言われている気がした。
(城壁を崩されてもなお、凛としておるのだな)
 眉を引き締めて、幸村は花弁を城壁、花柱を大将、複数ある雄しべを兵士たちになぞらえた。
 指で花弁をもてあそびつつ見上げれば、大木のかなり上部にまで赤い花の姿が見える。一本の蔓なのか、それとも数本の蔓が集まって大木を花で彩っているのかと考えて、幸村はまた、花弁を失ったむき出しの花芯に視線を戻した。
 春の光を浴びて艶めく蜜に、先ほどの味わいを思い出してゴクリと喉が鳴った。甘味は貴重だ。この花の蜜を採取して、団子にかければ美味だろう。小豆を炊いて蜜を混ぜ込み、餅に包めば格別なのではないか。
(問題は、どうやって持って帰るかだが)
 どこかに器となるものはないかと、幸村は周囲を見回した。大きなものでなくともかまわない。美味でも、摂取しすぎれば毒となるものがあることを、幸村は知っていた。全国を飛び回り、物事に精通している佐助ならば、この花のことを知っているはずだ。佐助に尋ねて問題がないかどうかを確認し、それから彼と共に来て蜜をたっぷりと集めればいい。
 幸村の視界には、立派な枝ぶりの木々が映っている。背には愛用の槍があり、山中で長物は使いづらい場合があるので、短刀も所持していた。枝をひとつ切り落とし、短刀でえぐって器にしようと考えて、幸村は背の槍を手に取って、どれが加工するのに都合のいい形だろうかと視線をめぐらせた。
「む……ぅ」
 甘い香りが漂う空間は、匂いの霧が立ち込めているようだった。枝を探す視界がたわんで、幸村は頭を振った。癖の強い茶色の髪が揺れて、香りを含んだ空気を揺らす。
「は……ぁ」
 吐息を漏らし、幸村は槍を取り落とした。体がふわふわと浮かんでいるような感覚に包まれる。それなのに妙に気だるくて、まるで温かな泥の湯に浸かっているみたいだった。
 匂いが幸村の意識を誘う。
 振り向いた幸村は、花弁を失った花柱に目を向けた。周囲の雄しべが、風もないのに誘うように揺れている。つやつやとした蜜の輝きに引き寄せられて、幸村は舌を伸ばした。
「んっ、ぅ……はぁ」
 脳髄が痺れるほどの甘さに、幸村は吐息を漏らした。花柱を口内に含み、チュクチュクと根元から吸い上げる。花弁に残っていた蜜よりも、ずっと濃厚で苛烈な甘さは、喉の奥が焼けるほどだった。
「んっはぁ……んっ、ん」

〜〜〜〜中略〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ぁ、んっ、う……屈さぬ……俺は、く、ぅう、んっ」
 陰茎を扱かれて、幸村は喉奥でうめいた。蜜嚢にたっぷりと欲液が溜まっている。それを吐き出せと促すように、雄しべに全身を撫でまわされて、花柱に肌を擦られた。従うわけにはいかないと、目を硬く閉じて首を振った。
「貴殿が何を求めておられるのかは知りもうさぬ……っ、なれど、どのようなことであれ、某、屈するわけには……っ、く、ぅ、ううっ」
 幸村は、相手を妖のたぐいだと認識した。植物の妖物が獲物の来るのを待ち構えていたところに、甘い香りに誘われた己がやってきて、罠にかかってしまったのだ。槍も防具も土の上。着物もはだけられて、無防備な姿になっている。手足どころか胴体にまで雄しべが絡み、花柱にまとわりつかれて蜜にまみれてはいるが、魂まで捉えられているわけではない。
 折れるものかと、幸村は目の奥に炎を滾らせた。性欲になど屈さない。この情動は戦場での躍動へと変えてみせると意志を硬くする。
「ぐ、ぅうっ、お、おおお」
 渾身の力を込めて雄しべを引きちぎろうと、幸村は腕と足を体に引き寄せた。ギシギシと雄しべがきしむ。幸村はさらに気合を入れた。筋肉がふくらんで、獲物を威嚇する獣めいた唸りが幸村の喉から漏れた。
「ぉ、おぉおうう……っ、ぐ、は、ぁあううっ!」
 戒めを解いて槍を掴み、蔓の妖物を退じてくれようと、視界の端で愛用の槍を確認した幸村は、信じられない衝撃に襲われて高く叫んだ。雄しべの一本に鈴口を割り開かれて、ウネウネとくねりながら狭い路の奥へと進まれたのだ。
「ひっ、ぃ……くは、ぁ、あっ、そ……ぁ、あ」
 尿道をまさぐられる幸村の四肢が、未知の感覚に対する強張りに支配される。ズルッズルッと引いては進む雄しべに、射精に似た快感を与えられ、小刻みに震えて浅く荒い呼気を吐いた。
「は、ぁ、ぁは、ぁ、ふ、ぁう……く、ぅう、ん」
 精路を擦られ、疑似的な吐精感を味わわされる幸村の意識が、淫らに白く濁っていく。
「はふっ、ぁ、は、ん、くう……あっ、なら、ぬぅ……く、耐えねば……っ」
 降伏するわけにはいかないと、必死に理性をつなぎとめる幸村をからかうように、雄しべは左右の乳首をクルクルともてあそんだ。
「ひ、ぁうっ、んくぅう」
 胸への刺激が下肢に走って、陰茎内部の刺激と混ざり、全身に広がっていく。甘美な興奮にあらゆるものが支配され、麻痺していった。
「んは、ぁ、あぅう……く、ぅああ」
 意識が悦楽に混濁していく。幸村の全身は花蜜で濡れそぼり、官能の熱に染まって艶やかに輝いていた。
 雄しべに脇腹や胸筋の輪郭、背筋をくすぐられる。わずかな動きにさえ、淫靡な震えをもたらされるほどに、幸村は性欲に押し流されていた。
「ぁ、ああ……このような……っ、な、らぬ……あ、ああ」
 うわごとのように繰り返す抵抗の言葉も、力を失っていた。すすり泣きに似た断続的な声を上げ、淫猥な刺激に肌を震わせる幸村には、もはや逃れる力は残っていない。肌を擦る雄しべが幸村の体を高く持ち上げ、成人男性の陰茎とおなじ大きさに肥大した花柱が、子猫が母に甘えるように、幸村にすり寄った。
「ん、ぁ、ああ……ぁ、う?」
 尻の谷を擦られて、幸村は疑念の声を上げた。花柱の先端が、後孔の口をつついている。そのようなところに何の用かと、不思議に思っていると雄しべが内側に潜り込んできた。
「ぁうっ、な、ぁあ……あっ、んぉ、ほぁ……くぅうっ」
 細い雄しべが狭い場所でうごめいた。精路の内側だけでなく、尻の中までまさぐられ、幸村はめまいを起こした。失いかけた理性が、驚きに引き戻される。
「はひっ、は、ぁ、ああっ、あ……な、に、ゆえ……あっ、あ」
 そのような場所に入り込むのか、と続けるはずが、内壁から生み出される卑猥な熱に遮られて、非難の問いかけは嬌声に代わってしまった。雄しべは次々に侵入し、好き勝手に動き回っている。 「んぁあっ、あ、あひっ、そ、ぁああ!」
 グンッと強く蜜嚢の裏側を押し上げられて、幸村は高く吠えた。ビクビクと陰茎が震え、欲蜜が吹き上がろうと根元から先端を目指した。しかし精路はふさがれたままで、わずかな量が鈴口の隙間から漏れただけだった。欲望の象徴が溶岩のように下肢にとどまり、幸村の全身を炙った。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜続きは、本で☆〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

発行日:2019年5月3日 超戦煌!




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