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温泉でバッタリ

 山の中を進むと、大きな川の音が聞こえる。それを頼りにもっと奥へと進めば広い川岸に行きあたり、小屋が見えてくる。その小屋の奥からは、もうもうと湯気が立ち上がり続けており、近づけば人の気配が無いのに、それが上がり続けていることに気付く。
 怪異の類では無い。
 川の脇で、温泉が湧き出でているのだ。
 いつのころ誰が作ったのかは知らないが、大きな石で囲まれた広々とした湯殿が整えられ、板塀が立てられ、山道へ向かう形で小屋が建てられた。
 脱衣所程度のものだったそれは、だんだんに改築や増築をされて、旅芸人や行商人が一夜を明かすこともできるほどの広さに整った。
 ここでは、どのような身分も小屋の前で脱ぎ捨てて入ることが、決まりとなっている。知る者は遠回りをして、この場所に入ることもあった。わざわざ、この場所へ来るためだけに山に入ることもあった。
 今、湯殿へ身を浸けている若者二人も、わざわざ温泉に入るために馬で駆けてきた者たちだった。
「ふう」
 湯殿の中央にある大岩に背を預け、板塀の建てられていない一角から川を眺めているのは、甲斐は武田の武将、真田幸村であった。
 見事に鍛え抜かれた褐色の肌が、湯に暖められてほんのりと朱に染まっている。それを、柿色の髪の青年――幸村の忍、猿飛佐助が眺めていた。
「良い湯だぞ。佐助も入らぬか」
「主と忍が一緒に湯船につかるなんて、聞いたことが無いんだけど」
「何をいまさら言うておる。この場所では、身分の違いなど関係ないではないか」
「ま、そうだけどさ。それじゃ、遠慮なく」
 手早く脱衣した佐助の肌は白く、あちこちに裂傷の痕がある。わずかに眉をしかめた幸村に、薄い笑みを浮かべて湯に足を浸けた佐助が、泳ぐように近づいた。
「そんな顔、しないでよね旦那」
 眉間にしわを寄せた幸村の顔を覗き込む。幸村の指が、佐助の傷跡に触れた。
「すまんな」
「何をいまさら」
 忍同士の戦というものは、目に見えぬ熾烈さをきわめるという。幼いころより忍働きをしてきた佐助の肌についたものは、それらが原因のものばかりだ。
「旦那のせいじゃ、無いでしょう」
 湯に温まった佐助の白い肌に、古傷が赤く浮かび上がる。ほう、と息を吐いた幸村が目を伏せた。
「新しい傷は、無いよ」
 全て、過去のものだ。
「――わかっている」
 自らを優秀な忍だと評する佐助は、傷跡が残るほどの怪我を、近年はしていない。
「見慣れてよ」
 何度も佐助の肌を見ていると言うのに、幸村は佐助の傷跡を自分が受けたもののように、堪える痛みを瞳に映す。
「慣れぬ」
 湯に揺れる幸村の、ひと房長い髪を指に絡め、やれやれとつぶやきながら、佐助は主に顔を寄せた。
「ッ――」
「そんな顔、しないでよ」
 大切な、小さなころから慈しみ続けてきた、闇を纏う自分を照らし続ける光を守るためならば、腕の一本――いや、四肢を全て引きちぎられようとも構わない。けれど、そうすれば幸村の心が傷つく。忍を忍と思わず、無垢な信頼を魂ごと向けてくる主は、かけがえのない人として、佐助を扱う。
「だから、俺様が湯船に一緒に入らないんだって、気付いてよ――旦那」
 傷ついた顔を見たくは無い。けれど、そういう顔をされることで彼の心が自分に向いているのだと、確認が出来る。
 相反するものを湧き上がらせながら、佐助は幸村の唇を自分のそれで、柔らかく押しつぶした。
「――ん」
 羞恥をほんのりと頬に上せつつ、幸村が応える。
 命を預け、命を重ね、自らの半身と思うほどに傍に居続けた二人は、主と忍の枠を越え、身を重ねる間柄となっていた。けれど、人の目をはばからなければならない関係は、他の者の前では自重せねばならず、若い性を堪え続けるのは相当の忍耐を強いる。それを解放するには、誰の目にもとまらぬ場所――身分も何もかもを脱ぎ捨てられる場所でなくてはならない。
「は、ぁ」
 幾度も唇をついばみ続ければ、幸村の唇が薄く開く。その隙間に舌を差し込み、舌先をくすぐり上あごを撫でれば、幸村の両手は佐助の肩を掴み、肌は小さな震えを示した。
「んっ、ふ――」
 舌を絡める佐助の指は幸村の脇腹に触れ、太ももに触れ、滑り始める。
「んっ、ふ、んっん――」
 口づけで感度の上がった幸村の肌は、佐助の手が滑るだけで淡い快楽を浮かび上がらせる。幾度も触れられ、与えられる心地よさを覚えた意識が、期待を膨らませて男のしるしを持ち上げた。
「ふふ……旦那に、こうして触れられるの、久しぶり」
 うれしげな、甘えるような佐助の声に、羞恥を浮かべながらも幸村が笑う。その時、佐助の耳が常人には捉えられぬほどの音を拾った。
「――?」
 わずかな佐助の表情の変化を見逃さず、疑問を浮かべた幸村に
「なんでもないよ」
 口づけて、主の牡の括れを撫でた。
「ッ――」
 ふる、と震えた幸村にほほ笑んで、牡の全てを指でなぞる。もどかしい刺激に目を伏せ耐える幸村の耳に、二種類の馬蹄の音が聞こえた。
「佐助、人が――」
「みたいだね」
 中断をさせようと呼びかけたのに、佐助は気にする様子も無く唇を寄せてくる。首をそむけて躱すと
「ぁうっ」
 強く、牡を握られた。
「さ、佐助」
 小屋の前で馬が止まる。誰かが――少なくとも二人の人間が、この温泉に浸かりに来たのだ。
「だ、誰かが」
「そうみたいだね」
 焦る幸村とは対照的に、佐助は落ち着き払い、逃れようとする幸村を最小限の力で抑え込み牡の先を指の腹で撫で続ける。
「っ、は、ぁ、あ」
 あっけなく佐助の指に屈した欲は、勃ちあがりきってしまった。
「ふふ、おっきいね」
「や、ばかもの――」
 そこに
「なかなか、良い感じじゃねぇか小十郎」
「そのようですな、政宗様」
 声が聞こえ、聞き覚えのある声音と名に、幸村が目を見開いた。
「こんなところで、出くわすとはね」
 つぶやく佐助が、手のひらで幸村の牡を包んだ。
「――ッ」
「声を立てたり、動いたりするとばれるからね」
 きゅ、と握られ奥歯を噛みしめた幸村が、懇願するように佐助を睨み付ける。ぞく、と背中を震わせた佐助は、その瞳に口づけた。――佐助に、止める気は無いらしい。
 こうなれば、なんとか堪えてやり過ごすしか道は無い。幸村は深く息を吸いこみ、細く長く吐き出して乱れ始めた鼓動を収めた。
「The bath is to my liking」
 うっとりとした政宗の声が聞こえる。
「来いよ。小十郎」
「政宗様が上がられたのちに、頂戴いたします」
「Ha――つまんねぇことを言ってんじゃねぇ。ここにゃ、気にしなきゃならねぇ相手は居ないだろう? ――――なぁ、小十郎」
 政宗の最後の呼び声が艶めいて聞こえ、おやと佐助は眉を上げた。
「……それでは、遠慮なく」
 しばらくして、小十郎が湯に浸かる音がした。
「ふう――。ここまで、馬を飛ばしてきたかいがあったな」
「ええ、本当に」
 心地よさそうな二人の声を聞きながら、佐助は幸村を握る手を、くすぐるほどの弱さで動かし始める。ふっ、と甘い息をこぼした幸村が抵抗できぬことをいいことに、耳に舌を差し込みながらささやいた。
「とんでもない相手が、来ちゃったね」
「やめ、ぬか」
「やだ――旦那にどれほど触れたかったか、どんなに楽しみにしていたか――――旦那は、違うの?」
「っ、今はやめろと」
「こんな状態で、動けないだろ」
 するん、と裏筋を撫で上げられて
「――〜〜〜〜ッ!」
 上がりそうになった声を、両手で口をふさぎ抑え込んだ幸村の耳朶に、佐助の唇が甘える。
「出しちゃって、楽になってから抜け出そう」
 そういう佐助の指は、焦らすようにしか触れてこない。もどかしさに震える幸村の太ももが、佐助の腕を挟んで擦り合わされた。
「なぁ、小十郎」
 幸村が背にしている大岩の向こうで、政宗が小十郎の首に腕を絡めた。
「なりません」
「いいだろ、少しくらい」
「我慢なさいませ」
「never again――なぁ」
 熱っぽくささやいた政宗の唇が、小十郎を求める。仕方が無いと息を漏らした小十郎は、政宗の頭を掴み、唇を寄せた。
「ん――もっと、なぁ」
 小十郎の唇を舐め、より深くと求める政宗の目は艶めいて輝き、小十郎の胸を高鳴らせた。
「まったく、このような所で誰かが現れでもすれば、どうするおつもりですか」
「そんときゃ、そんときだ。外に居た馬の持ち主が戻ってくるまでに、さっさと楽しもうぜ」
 くすくす笑う政宗に
「そのようなつもりで参ったのでは――」
 小十郎が小言を言いかけ、政宗の唇に遮られた。
「俺は、そういうつもりで、誘ったんだぜ?」
 二人の会話に驚きの目を重ねた幸村と佐助は、それぞれに違う理由で衣服をすぐに着込めるように、万一の盗難にあわぬように湯殿の脇の岩へ置いておいたことに、ほっとした。
(もし、某が居ると思われでもすれば――政宗殿に、このような醜態をさらしてしまったやもしれぬ)
(荷物を置いていたら、旦那が居ることがバレちゃって、邪魔されちまうところだったな)
 佐助の唇が幸村の鎖骨に触れて、指はそのまま牡を撫で続ける。じわじわと広がる甘い刺激に、漏れそうになる吐息を堪える幸村の耳に、積極的な政宗の声が届いた。
「は……小十郎。ほら、遠慮しねぇで来いよ――湯よりも熱く、俺を温めてくれ。馬の持ち主が、現れる前に」
「承知」
 短く応えた小十郎は、湯殿の真ん中にある大岩と自分の間に政宗をはさみこみ、唇を貪る。
「はっ、ぁ、あん――ふ、こじゅ、んぅ」
 激しい接吻の音と声に、ふるん、と幸村の牡が揺れた。
「激しいね」
 揶揄するように佐助がささやき、幸村が喉を鳴らす。ぷくりと膨らんだ彼の胸の実は誘うように真っ赤に熟れて、爪弾けば零れ落ちそうになっている。誘惑に負けて、佐助の指がそれに触れた。
「あっ――」
 思わず上がった声に、小十郎と佐助が動きを止めた。顔を見合わせ、大岩の後ろを覗き見て
「真田――幸村!」
 目を見開く。それに、少し眉を下げた佐助が手を振りながら
「見つかっちゃったねぇ、旦那」
 悪びれも無く、言った。
「アンタら、なんで……」
 言いかけた政宗が、幸村の様子を目にして、ははんと鼻に皺を寄せた。
「なんだ。アンタらも、そういう関係だったのか」
 小十郎の腕を引き寄せ唇を重ねた政宗が
「なら……このまま互いの主従の秘密を共有し合おうじゃねぇか」
 幸村を挑発した。
「政宗様、はしたのうございます」
 たしなめる小十郎に
「はしたなくねぇ行為じゃあ、無いだろう」
 ニヤリとした政宗が小十郎の下肢に手を伸ばし
「こんな硬くしといて、いまさら止めるなんざ言わせねぇぜ?」
 牡を掴んだ。
「なぁ、幸村――どっちがより熱く、相手を信頼し身を委ねきれるか比べてみようじゃねぇか」
 政宗は、色恋ごとの話を一切しない奥手の幸村がどのように佐助に乱されるのか、興味が湧いたらしい。
「旦那の可愛い姿を、竜の旦那になんて見せたくないんだけど」
 二人が現れても止めようとしなかったくせに、そのようなことを言う佐助に顔を寄せた政宗が耳元でささやく。
「どうせ、いつも流されるだけのコイツを弄っているだけなんだろう? 俺との勝負ともなりゃあ、積極的に求められるかもしれねぇぜ」
 その言葉は、佐助に魅力的に響いた。
「だってさ、旦那」
 肌身を快楽に震わせている幸村が、困惑したように政宗を見る。挑発するように小十郎の胸に背を預け、背中越しに小十郎の首へ腕を回した。
「この俺が背負っているモンは、とてつもねぇ。その俺の背を預けられる男は、小十郎ただ一人だ」
 言葉を切り、じっと幸村を見据える。
「この竜の命を丸ごと預けられるのは、コイツだけなんだよ」
 だから、と小十郎の頬の傷に唇を寄せた政宗が、挑むように幸村を睨み付けた。
「体の芯から求めて、繋がるんだ」
 はっとした幸村の前で、双竜の唇が重なる。
「それがどんだけ深く激しいか、教えてやる」
 政宗に促され、しかたがないと息を吐いた小十郎の唇が、主の首筋に触れて鎖骨を滑り、胸に花を散らす。湯に浸かったまま呆然と見つめる幸村は、双竜を見上げる形となり、勃ちあがってゆく竜根をまざまざと見せつけられることとなった。
 ごくり、と喉を鳴らした幸村の耳朶に唇を寄せ
「竜の旦那のじゃなくて、俺様のを意識してほしいんだけど」
 彼の手を取った佐助は、自らの股間へ導いた。
「ッ!」
 ビクッと震えて目を向けてきた幸村に、眉尻を下げ困ったように笑みながら
「旦那に負けないくらい、おっきくなってるでしょ」
 言えば、唇を引き結んだ幸村が頷いた。
「っ、は、ぁ――こじゅぅろ……ぁ、あ」
 うなじを吸いながら、小十郎の手が政宗の牡を扱きあげる。先走りをこぼす口を指の腹で撫でながら、抱き留めるように回した腕で胸乳をくすぐる彼の指に、羞恥のかけらなどみじんも見せずに政宗は声を上げた。
「すごいね」
 佐助の舌が、幸村の耳に触れる。はっ、と熱い息を吐いた幸村が、佐助の牡を掴んだ。
「――佐助」
 求める声に
「いっぱい、気持ちよくなろうね」
 甘やかすように告げて口を吸い、胸に指を這わせる。牡を撫で、こぼれそうに熟れた乳首を捏ねると
「んっ……ふ、んんっ、ぃ、んぅ」
 奥歯を噛みしめ抑えた声が、鼻から抜ける。佐助の牡を握る幸村の手に力がこもり
「っは」
 佐助の息が乱れた。それに気づいた幸村が、そろりそろりと指を動かし始める。
「俺様の事、きもちよくしてくれるの?」
「っ――う、うまくは出来ぬぞ」
 唇に乗った嬉しさを、幸村の唇に移した。
「ぁ、こじゅ、んっ……ぁ、もぉ」
 首をめぐらせ唇を寄せ、政宗が小十郎の腰に尻を擦りつける。
「政宗様――」
 熱っぽくささやき、小十郎が手淫の手を速めて
「っ、は、ぁあ――ッあ、ああ」
 きわまった政宗が放ち、足元にうずくまり唇を重ねながら肌を寄せ合っていた幸村と佐助の顔に、かかった。
「わ、ちょっと――」
 文句をつけようと睨み上げた佐助に、射精の余韻を目元に漂わせながら、政宗が見下ろす。
「この程度で、怒ってんじゃねぇよ」
「怒るにきまってんだろ! あぁもう、旦那も汚れちゃったねぇ……旦那?」
 ぼんやりとしていた幸村が、呼び声にはっとなった。
「ぁ……」
 耳の裏まで赤く染めた幸村が、佐助の肩に額を乗せる。
「かわいそうに。竜の旦那の生臭いのかけられて、嫌だったよねぇ」
 抱きしめて背中をさすると、首を振られた。佐助の肩から顔を上げずに、幸村が小声で強請る。
「俺も、……したい」
 言い終えると、佐助の首に腕を絡めてしがみついた。
「旦那ぁ」
 きゅん、と胸を絞られた佐助は、ざばりと幸村を抱えたまま立ち上がり、大岩の上に幸村を乗せて足を開かせ、臍まで反り返っている牡を口に含んだ。
「ッ、は、ぁ、ああっ、さすっ、ぁ、あはっ」
 舌と上あごで擦りあげられ、佐助の肩に足を絡めて幸村が声を上げる。
「Fum」
 口の端を舐めた政宗が、小十郎から腕を離し、幸村の傍へ顔を寄せた。
「イイ顔、すんじゃねぇか」
「んぅっ、んんっ」
 喘ぐ口に舌を差し入れた政宗に
「ちょッ! 何してんのさ」
 顔を上げて抗議をすれば、佐助の口から離れた幸村の牡が、求めるように先走りをあふれさせる。
「少しぐれぇ、構わないだろ」
「構うにきまってんだろ!」
「政宗様――」
 大岩へうつぶせになっている政宗の背へ、小十郎の分厚い胸板が重なった。節くれだった長い指が、政宗の顎にかかる。
「何だよ――んぅ」
 無理やりに首を向けさせて、小十郎が唇を貪る。
「んっ、ふ、ん、んっ――ぷはっ。何だよ、急に」
「真田に口吸いをなされるというのは、私も承知できません」
 ふふんと鼻を鳴らした政宗が
「なら、そんな余裕も無いぐれぇ乱せ――小十郎」
「お覚悟めされよ」
 小十郎の舌が政宗の背骨に沿って肌を下り、両手で尻を割られて奥まった箇所を舐める。
「ぁ、は」
 声を上げた政宗を、不思議そうな目で幸村が見た。それにニヤリを笑みかけて
「互いに、どんぐれぇ命を預けられる相手に狂いきれるか、見せ合おうじゃねえか」
 顎を引き、睨み付け
「――望む所にござる」
 挑発をされた幸村が、乗った。
「っ、は――だとよ、猿……んっ、存分に、乱してやれよ」
「――旦那、良いの?」
「良いも悪いも――この状態ではもう、乗るしか無いではないか」
 拗ねたように言うのへ
「りょ〜かいっ」
 軽い調子で返した佐助が、幸村の股間に顔をうずめる。
「っ、は、ぁ、んっ、ぁあ……ぁ」
「イイねイイね……ッ、その顔……そそるぜっ、ぁ、あ」
「っ、政宗殿っ、こそ――ッ、ぁ、淫らな顔に……ッ、なって、おり申すッ」
「ぁ、ひぅっ、ソコッ、ぁ、あぁ」
 深い場所に触れていた舌が抜かれ、小十郎の指が竜孔を探り泣き所を責めた。
「真田にばかり気を取られず、こちらにも集中をしていただきたい」
「っ、ぁ、だからって、ぁ、ソコ、ばっか……ッ、あ、ああ」
 ちら、と挑発的に小十郎が佐助を見た。尻を突き出すようにして、声を上げだした政宗の姿に、腰のあたりに暗いものが湧き上がる。
「ッ、は、ぁあうっ、さすっ、ひ、ぃん――ッ、あああああ」
 乱暴に口淫し、無理やりに幸村に吐精をさせて、それを手に受ける。高く足を持ち上げて尻の間に指を当て、彼自身の精を潤滑剤代わりに塗り付けた。
「ぁはっ、ぁ、あううっ――さすっ、ぁ、ああ」
 余韻も冷めやらぬ間に指を飲まされ泣き所をつつかれて、幸村の目じりに涙がにじむ。それに舌を伸ばした政宗が、耳元でささやいた。
「っ、すげ……クるぜぇ……ぁ、は――ふっ、普段のアンタからじゃあ、想像もつかねぇ、顔だ」
「っは、ぁあうっ、ま、さむねどのっ、こそぉ、ぁ、ひっ、んううっ」
 心を寄せる従者に乱されながら、刃を交える時のように目を光らせて好敵手を睨み付ける。その唇は、笑みにゆがんでいた。
「ぁ、も……小十郎――ッ、は、いい、から来いッ」
「佐助ぇ、ぁ、もぉ……ッは、奥に」
 魂を預けることのできる唯一の人に、手を伸ばす。どちらの従者も伸ばされた指に唇を寄せ
「仰せのままに」
「うん、旦那――」
 覆いかぶさり、猛る思いをあてがい、突き刺した。
「ぁ、ぃあぁあああ――ッ」
「ひっ、ぃあううう――」
 常よりも興奮しているらしい熱の塊が、内壁を抉る。容赦なく突き上げられ揺さぶられ
「はひっ、こじゅっ、ぁあっ、こじゅ、ろぉお」
「さす、けぇえっ、ひっ、ひぃんっ、さ、すけぇえ」
 啼き声を上げる主の唇に、包み込むように唇を寄せた。優しく柔らかな接吻とは対照的に、従者の腰は容赦なく内壁を掻き乱す。
「っ、政宗様」
「ふっ、旦那ぁ」
 余裕のない従者の顔と声に、主の胸に温かなものが湧き上がり、より強く彼らの欲を絞り上げる。
「ぁ、はぁあっ、んっ、ん」
「ぁうっ、ひ、んぅっ、んっ」
 傍にあった指をからめた蒼紅は、どちらともなく顔を寄せ、舌を伸ばし、唇を重ねた。
「はぁ、んっ、幸村――」
「ふんっ、ぁ、政宗どのぉ」
 乱れきった好敵手の顔に、肌が震えて牡が揺れる。腕を伸ばして絡み合いだした主の姿に、従者の牡は限界を迎え
「くぅ」
「っ、く」
「っ、はぁあああ――」
「ぁあぁあああ――」
 ドッと注がれた熱に促され、蒼紅は叫びながら絶頂を迎えた。
「はぁ、あっ、ぁ……」
「ふっ、ふ、はぁ、あ……」
 余韻の虚脱と乱れた浅い息の合間に、挑む目を重ねた蒼紅は細く長く息を吐き、目を閉じる。ゆっくりと引き抜いた従者は、壊れ物を扱うように主を抱えて唇を寄せた。
「政宗様」
「旦那」
 目を開けて、頬に手を伸ばす。首を伸ばし、唇をかすめて従者の肩に頭を乗せた。
「湯あたり、しちまいそうだ」
「では、上がりましょうか」
「旦那、大丈夫?」
「ん……熱い」
「上がって、休もうね」
 岩場に主の体を横たわらせ、体を拭って着物を着ける。ふらつきながらも佐助に手を貸されつつ、立ちあがった幸村が
「片倉殿が政宗殿の右目であるならば、この佐助は某の影にござる。――いかなことがあっても離れることの無き、影にござる」
「――旦那」
 佐助の胸へ喜びを植え付ければ、不敵に唇をゆがめた政宗は
「Ha――! 体の一部と影じゃあ、比べるまでもねぇな。なぁ、小十郎」
 背を小十郎に預け、鼻で笑った。
「面白いモンを、見せてもらったぜ。はるばる来たかいがあったな――――。帰るぜ、小十郎」
「少し、休まれては」
 気遣う小十郎に大丈夫だと政宗が言うまえに
「この先に廃寺があるから、少し休んで行ったら? そこなら、俺様も時々使うから最低限の手入れをしてあるし、一晩過ごしたって問題無いと思うけど?」
 佐助が茶目っ気たっぷりに肩目を瞑って見せた。
「片倉の旦那の忍耐力は凄いかもしんないけど、帰るまで我慢させるのはかわいそうだろ」
 俺様も、と幸村の額に口づけて
「まだまだ、不完全燃焼だからさ」
 意味深な笑みを向けると、意外そうに片眉を上げた政宗が、問うように小十郎を見る。
「――否定は、いたしません」
 目を逸らして呟いた小十郎に
「OK――なら、その廃寺とやらを借り受けるとしようか。ソッチはソッチで、いい場所があるんだな」
「無きゃ、言わないって」
 置いてけぼりを食らった顔の幸村に、政宗が顔を寄せる。
「今回は、引き分けってことにしておいてやる。――次に会う時は、どっちがより深く相手を満足させられるか、勝負といこうぜ。真田幸村」
「政宗殿に挑まれる事、拒むわけにはまいりますまい」
「政宗様」
「ちょっと旦那、意味わかって言ってんの?」
 咎める小十郎の声と、佐助の呆れ声が重なった。
「それじゃあ、せいぜい精進しておくこったな。また、会おうぜ」
 ひらりと手を振って、小十郎に身をもたせ掛けて去る背中を見送った後、幸村が佐助の手を握り、もじもじと何か言いたそうにする。
「どうしたの」
 たっぷりと蜜をかけた菓子のように、甘い声で問うと
「は、はしたないと思うな――その……まだ、足りぬゆえ――再度、いたさぬか」
 羞恥を堪えるための拗ねた声で、うつむいたまま幸村が言う。
「うん。いっぱい、しようね」
 答えた佐助の顔が、蕩けそうに幸せを滲ませていることに、うつむいたままの幸村は気付かなかった。
 二人が、そんな会話をしている間、政宗も小十郎の腕を掴み、こちらはまっすぐに目を見据えて
「猿の言っていたことは、本当か」
 問うた。
「言っていたこと、とは?」
「我慢だの、不完全燃焼だのって言っていただろう」
 ああ、と頷いた小十郎は政宗の腰に腕を回す。
「あのように乱れる貴方様を目の当たりにし、一度きりで終われるほど、この小十郎の思いは浅くありません」
 返答に、満足そうに口の端を持ち上げた政宗が、手綱を握り馬にまたがる。
「なら、さっさと行こうぜ。俺も、してぇ」
 言いながら駆けだした政宗に
「まったく――」
 笑みつつ吐息を漏らし、小十郎も馬に乗り、駆けた。

 ひょんなことから蜜秘を知った二組の主従は、それぞれに思うさま想いをぶつけ合い、乱れきった。
2012/10/15



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