楽しげに会話をする従者らの前で、主の二人は居心地の悪い思いをしていた。「へぇ。そんな事があったんだ。小さい頃から、可愛気が無かったんだねぇ」「そうならざるを得なかっただけだ。いじらしいと言え」「ま、そういう見方もあるだろうけどさ。それに比べたら、うちの旦那は素直で可愛かったよぉ」 何がきっかけだったのか、真田幸村の忍・猿飛佐助と伊達政宗の腹心・片倉小十郎はそれぞれの主との思い出を語りだし、それがいつの間にか幼少期にまで遡ってしまっていた。 青年期に聞かされる、自分の幼い頃の話ほど恥ずかしいものはない。幸村と政宗は、別の話に水を向けようとしてみたのだが、それすらも過去の出来事を思い出す呼び水となって、さらに恥ずかしい思いをするはめになってしまった。下手に口を出さずに、二人が話し終えるのを待つのが良策と、二人は肩をちぢめて時が過ぎるのをひたすら待った。「あの頃は、生意気なクソガキだと思っていたが、思い返すといじらしく、健気でならねぇ」 ほう、と小十郎が目の奥に慈愛をたたえてつぶやくと「ほんっと。あの頃はうるさくてうっとうしい、なぁんて思っていたけど、今思うと可愛くて仕方ないぜ」 佐助も負けじと頬をゆるめる。ようやっと区切りができたと見た幸村と政宗は、さっさと切り上げてしまおうと腰をあげた。「Shit! もうこんな刻限か。長居をしちまったな、真田幸村」「いえ。こちらこそ、何のおかまいもできませず申し訳ござらぬ。道中、気をつけられよ」 奥州から甲斐へと出向いていた政宗が帰ると示せば、従わぬわけにはいかない小十郎が膝を立てた。「ずいぶんと、のんびりしちまったな。また来るぜ」「結構楽しかったから、もう一泊ぐらいしてってもらっても、俺様はかまわないんだけどね」「いや。これ以上、領地を空けておくわけにはいかねぇんでな。畑の世話もある」「そりゃ残念」 政宗はさっさと足ごしらえを終えて手綱を掴み、幸村は引きとめもせずに見送りに出た。「めずらしいね。旦那が引きとめないなんて。いつもなら、もう一泊して手合せを〜って、うるさいのに」「ぬ。俺とて政宗殿と片倉殿のお二人が、奥州を長く空けることの意味を、わかっておるだけだ」 むっと幸村がほほをふくらませると、佐助がその頬をつつく。「そんなに、むくれなくったっていいだろ。かわいいなぁ、旦那は」 甘い気配を隠そうともしないのは、双方の主従ともに色艶の仲であることを承知しあっているからだ。「Hey、猿。見せつけてんじゃねぇよ」「うらやましいんなら、ソッチも片倉の旦那とつつきあったら?」 フフンと鼻で笑う佐助に、政宗はニヤリとして馬上の人となる。「そんな、ガキくせぇPhysical contactなんざ、やってられっかよ」 そこに小十郎が自身の馬を引いて現れた。「お待たせして申し訳ございません。政宗様」「Oh, all right」「それでは。政宗殿、片倉殿。次は某がそちらに伺わせていただく所存にござるゆえ、よろしくお願いいたしまする」「OK,楽しみにしてるぜ」 幸村が頭を下げれば、政宗が鷹揚に頷いて馬首を巡らせる。そのまま政宗と小十郎は帰路に着き、幸村と佐助は彼らの姿が見えなくなるまで佇んでいた。 佐助×幸村へ ◆ 小十郎×政宗へ 2015/01/19